「ジェンダー問題が凝縮された大会」実川元子(翻訳家・ライター) シリーズ 「私はこう見た! FIFA女子ワールドカップ2023」<3/3>
「なでしことの距離を縮めた(?)WEリーグ」ちょんまげ隊長ツン シリーズ「私はこう見た! FIFA女子ワールドカップ2023」<2/3>
7月20日に開幕したFIFA女子ワールドカップも、早いもので残り2試合。今日の3位決定戦(スウェーデンvsオーストラリア)、そして明日の決勝戦(スペインvsイングランド)を残すのみとなった。大会がフィナーレを迎えるのに合わせて、当WMでは3日連続で現地観戦した方々へのインタビューを公開。今大会の多角的な検証を試みる。
第3回のテーマは「ジェンダー」。今大会のホスト国であるオーストラリアとニュージランドは、いずれもマルチカルチャーを国是としている。また出場国の数も、前回の24から今回は32に増加。世界的な女子サッカーの広がりと、勢力地図の変化を感じさせる大会となった。そして、もうひとつ注目されたのが「ジェンダー」というキーワードである。
そこで、シリーズを締めくくるべく「ジェンダー」という切り口でお話いただくのは、翻訳家でライターの実川元子さん。実川さんは昨年6月に『女子サッカー140年史 闘いはピッチとその外にもあり』を翻訳しているが、そのきっかけとなったのが4年前のフランス大会の現地観戦だったという。
その後のコロナ禍により、4年ぶりの海外となった今大会。「ジェンダー」に着目した実川さんは、現地で何を見てどう感じたのだろうか。その言葉に、じっくりと耳を傾けることにしたい。なお、文中の写真はZoomのキャプチャを除き、いずれも実川さんからご提供いただいている。(取材日:2023年8月10日、オンラインにて実施)
■「今後も女子サッカーは欧州を中心に回っていく」?
──実川さん、今日はよろしくお願いします。本題に入る前に、昨年6月に出版された『女子サッカー140年史』について伺いたいと思います。この翻訳を引き受けるきっかけとなったのは、4年前にフランスで開催された女子ワールドカップだったそうですね。
実川 きっかけは4年前のフランスで、初めて女子ワールドカップを観戦して考えさせられることが多く、私から版元に「女子サッカーの本があったら、私に翻訳させて!」ってお願いしたんです。ちょうどあの大会で、優勝したアメリカ代表の男女同一賞金と待遇を求めた「イコール・ペイ」が話題になっていたじゃないですか。
──そうでしたね。今年のヨコハマ・フットボール映画祭で上映されていた、『LFG –モノ言うチャンピオンたち–』でも、この時の様子が描かれていました。
実川 「イコール・ペイ」だけでなく、#MeToo運動とか、LGBTQ問題とか、ジェンダーに関するさまざまなテーマが女子サッカーに凝縮されているように感じたんです。そのことを白水社の編集者に話したら、英国のスザンヌ・ラックというジャーナリストが女子サッカーの歴史についての本を書いていると概要が送られてきました。
──さっそく取り寄せたわけですね?
実川 それがまだ、書いている途中だったんですよ。結局、コロナの影響なんかもあって、向こうで出版されたのが去年の6月。日本語版とほぼ同じタイミングだったんですよね。スザンヌ・ラックによれば、ヨーロッパでは50年間、女性がサッカーをプレーするのは禁止されていたそうです。ブラジルでも、法律で禁止されていました。それでも、女性たちはサッカーをすることを諦めなかったと。ただし、この本はヨーロッパ中心に書かれていて、2011年の日本のワールドカップ優勝についても触れられていなかったんですよ!
──え、そうだったんですか! 実川さんは、そのスザンヌさんとコンタクトは取れたんですか?
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