宇都宮徹壱ウェブマガジン

ワールドカップ・イヤーにこそ読みたい! 歴代サッカー本ベストイレブン<2/2>

ワールドカップ・イヤーにこそ読みたい! 歴代サッカー本ベストイレブン<1/2>

 

<2/2>目次

*なぜタイトルに「ワールドカップ」も「サッカー」もないのか?

*トップ下は『オシムの伝言』か『東欧サッカークロニクル』か?

*出版業界がサッカーやワールドカップに冷淡な理由は何なのか?

なぜタイトルに「ワールドカップ」も「サッカー」もないのか?

──なかなか佐山さんの選んだ本を紹介しきれないので、どんどん行きましょう。ヘンリー・ウィンター著/中山忍訳の『愛と失望のスリー・ライオンズ』。こちらはイングランド代表についての本ですよね。Amazonの紹介文から引用すると《1966年ワールドカップ優勝の再現を期待しては裏切られ続けた「失望の50年」。半世紀に及ぶ国際大会無冠は国辱も同然だ。》とあります。4年前のロシア大会で、28年ぶりにベスト4に進出したイングランドでしたが、それまではずっと鬱憤が溜まっていたということなんでしょうね。

佐山 そう。そのやるせない筆さばきがもう、同病相憐れむ的でたまらないんですよ。ウィンターは『フットボリスタ』誌での連載を一冊にした『フットボールのない週末なんて』でも知られる〝書ける人〟です。キャリアも豊富でイングランド3人目のバロンドールの投票権を持つ人でもありますね。

 私にとってのイングランドといえば、この本を翻訳した中山忍さん、それから『ULTRAS』の田邉雅之さんのおふたりの「介助」で、2004年にロンドンを取材したのが一番の思い出です(と言って、当時のNumberのバックナンバーを差し出す)。しかも撮影は、大ベテランのピーター・ロビンソンさん。

澤野 まだまだ、こういう贅沢な取材が許されていた時代ですね。

佐山 しかも「チェルシーのフーリガンを取材してきてください」という、とんでもないリクエストで。ご存じのとおりチェルシーって、わりと中流階級以上でインテリの人たちが多いんだけど、普段はおとなしく暮らしていてもスタンフォード・ブリッジではぜんぜん違うんですよね。エディンバラ中央駅の近くで夜遅くに、チェルシーファンの税理士とかIT企業の上役とかにインタビューをしたんだけど、とにかくもう薄気味悪くてね(苦笑)。この間のエリザベス女王の葬儀の様子をTVで見ていた時、当時の記憶が鮮明に蘇ってきました。

──そういえば女王の崩御によって、イングランド国歌も『ゴッド・セイブ・ザ・クイーン』から『ゴッド・セイブ・ザ・キング』に変わります。そこで次に紹介したいのが、いとうやまね著『フットボールde国歌大合唱』。ワールドカップ出場国、プラスアルファの国々の国歌を紹介して、それについての解説が実に興味深い本ですよね。

佐山 2002年日韓共催の時には、ワールドカップ出場国の国歌を集めたCDが何種類か発売されました。4年に一度再読、再聴したくなる訳だから、いとうやまねさんのこの本は、ある種の永遠性を獲得しています。ドイツ、コスタリカ、スペインと代表が戦う前に読んで気分を盛り上げましょう。ロシアの項を読んで、気持ち悪くなるのもまた一興かと(笑)。

 ただ、試合前の国歌斉唱以外、そんなに音楽はいらないですよね。最近は国際大会での音楽的な演出が、ちょっと過剰なような気がしています。その点、去年のユーロ2020の開幕式は2曲くらいで終わらせて、とっても良かった。やっぱりお客さんは、試合を観たくて来ているわけですから。

──で、こちらが最後の作品となります。西部謙司著『フットボール代表 プレースタイル図鑑』。こちらもまた、図鑑をタイトルにした作品になりますね。

澤野 2020年に西部さんは『フットボールクラブ哲学図鑑』という本を出していたので、その続編みたいな位置づけですね。

佐山 確かにそんな感じですよね。相変わらず教科書的な装丁なので、最初はちょっと抵抗があったけど、読み始めたらどんどん引き込まれていきました。それとタイトルにも工夫が感じられていて、「ワールドカップ」とも「サッカー」とも書かれていない。

──本当だ! 2002年大会の頃と違って、今はそれらのキーワードがマイナスに働くリスクがあるのかもしれないですね。

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