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日本サッカーの「新しい景色」とは何だったのか? レジー(『日本代表とMr.Children』著者)<2/2>

日本サッカーの「新しい景色」とは何だったのか? レジー(『日本代表とMr.Children』著者)<1/2>

2/2>目次

AbemaTVでの本田圭佑の解説が評価された理由

*サッカーを語っていない「ジャパンズ・ウェイ」

*「4年に一度しか盛り上がらない」代表の楽しみ方

AbemaTVでの本田圭佑の解説が評価された理由

──先ほど森保監督について「発信力不足」という言い方としましたが、具体的に言うと語彙が限定的だと感じています。たとえば、アジア最終予選あたりから「新しい景色」って言葉が、何度も会見で出てくるじゃないですか。そういう代理店的なキャッチコピーではなく、もっと自分の言葉で発信してほしかったと個人的には思っていました。レジーさんは、あの「新しい景色」って、どう捉えています?

レジー 言葉の使い方として自己啓発感が強いですよね。あと、特に僕が思ったのが「AKB48っぽい」なと(笑)。ファンの投票結果で各メンバーのポジションを決める選抜総選挙というイベントにおいて、「景色」という言葉が連発されていたので。大島優子さんが1位になったときに「この景色をまた見たかった」とコメントしたのが有名です。

──おっと、そうだったんですか! それにしても、並びが真ん中になるだけで、そんなに景色が変わるものなんですか?

レジー 総選挙の会場には何万人も集まっているのが常だったので、そこから見える「景色」は格別なんだと思います。48ファンの間では、「喜びのコメントで『景色』言いすぎ問題」はよくネタになっていました(苦笑)。

──なるほど(笑)。もうひとつ、教えてください。レジーさんが指摘した「言葉の使い方として自己啓発感が強い」というのは、具体的にどういう意味でしょうか?

レジー これもAKB48に絡めて説明すると、彼女たちの行動様式には「努力は必ず報われる」という発想があるんです。これ自体、全面的に間違いだとは思いませんが、サッカーを含めたスポーツって、どんなに努力しても勝ち負けって絶対にあるじゃないですか。

 その状況を前にして、どうやって最善を尽くすかが大事だと自分は思うんですが、そういう具体的な努力や目標のあり方を曖昧にする力が「新しい景色」という言葉にはあるように感じます。何かいいことを言っていそうだけど、その実、中身はない。こういうキャッチフレーズは、適当に作られた自己啓発本でも、よく登場するように思います。

──キャッチフレーズではないですけど、ザッケローニ監督時代に「自分たちのサッカー」って、あったじゃないですか。ブラジル大会の結果が散々だったので、以降はすっかり封印されてしまいましたが。それでも、お仕着せ感のない「自分たちの言葉」という意味では、むしろ再評価したい気分です(笑)。

レジー ザッケローニやハリルホジッチの時のように、通訳を介していたなら「新しい景色」というフレーズが記者会見で連発されることはなかったでしょうね。そもそも、具体的なサッカーの内容でもないですし。にもかかわらず、JFA側が会見で言ってほしいことを森保監督なら素直に言ってくれる。そういう面でも「日本人監督のほうがいい」という話になっているのかもしれませんね。穿った見方ですが。

──今大会で自分の言葉でしっかり表現して、最もファンの心を掴んでいたのは、元日本代表の本田圭佑だったのは何とも皮肉な現象だったと思います。彼は今回、AbemaTVの解説として大会に参加していたわけですが、ピッチ上の選手以上に発言が注目されていましたから。

レジー そうでしたね。本田の解説が支持されたのは、技術的な話を交えながら「推し方の解説」をしていたからだと思うんですよね。「こいつ穴やな」とか「ウザいな」とか(笑)、カジュアルな言葉を使いながらサッカーの楽しみ方を自然体で伝えていました。

 彼は今大会、一貫してアルゼンチン推しでしたけれど、そうやってスタンスを示しているのも、解説者としては斬新でしたね。従来の解説としての基準に照らし合わせると、それがいいことなのかは微妙かもしれませんが(笑)。

──準決勝のアルゼンチンvsクロアチアの時は、ちょっとイラッときましたが(笑)。そうかと思えば、日本代表の選手を「さん」付けしていたのも面白かったですね。

レジー 親しい選手をニックネームで呼ぶのとは対照的で、あくまでも「自分の目線で見た日本代表」について語っていましたね。現場を知っているからこその解説というのは、一貫していましたし、評論家ではなく現役で活躍している人の言葉が重視される、今の時代の空気ともマッチしていました。

──そこまで考えての解説者起用だったんでしょうか?

レジー それはわからないですが、「そこまで言うんなら、お前がやってみろよ」みたいな言説が最近のTwitterには溢れているので(苦笑)、そういう文句が出ない人選ではありましたね。外からの批評文化が成立しにくくなっている、そういう時代だからこその本田人気だったとも言えるかもしれません。

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