宇都宮徹壱ウェブマガジン

すべては「市民球場跡地にスタジアムを」から始まった 広島の新スタジアムをめぐるアナザーストーリー<1/3>

 今年オープンした、エディオンピースウイング広島(以下、Eピース)。611日には、ワールドカップ・アジア2次予選のvsシリア戦が開催されることが決まった。広島での日本代表戦開催は2004年以来、実に20年ぶり。サンフレッチェ広島監督時代から、新スタジアム建設を熱望していた森保一監督にとっては、これ以上ない晴れがましい舞台となることだろう。

 このEピースについて当WMでは、昨年にサンフレッチェ広島のスタジアムパーク準備室室長、信江雅美さんのインタビュー記事を公開(参照)。今年のJ1開幕戦も現地取材している(参照)。今週お届けするのは、どのメディアも取り上げていない、広島の新スタジアム建設をめぐるアナザーストーリーだ。

 Eピース建設にあたっては、広島県と広島市、広島商工会議所、そしてサンフレッチェの親会社であるエディオンの4者が、実質的なプレーヤーであった。そんな中、勝手連的に始まった「ALL FOR HIROSHIMA(以下、AFH)」というグループに、当WMは注目。メンバーのひとりに、一連の経緯について話を聞くことができた。

 AFH立ち上げのきっかけは、旧広島市民球場の閉鎖と解体。街なかからスポーツ施設が失われたままでは、いずれ地域の活気が失われてしまうのではないか──。そんな危惧を抱いた当時30代の有志が集まり、各方面へのリサーチや働きかけをしながら、市民球場跡地のスポーツ活用について具体的な提言を行っていたのである。

 今回の取材では、跡地でのサッカースタジアム建設案のパースも確認することができた。制作に当たったのは、広島カープとサンフレッチェ広島の熱狂的なファンで、都内のゼネコンに勤務する「またろ」さん。その発想のユニークさに感動を覚える一方、なぜAFHの活動が表に出てこなかったのかという疑問も残った。

 そんなわけで今週は、知られざるAFHの活動について、またろさんの証言から明らかにしていくことにしたい。本稿の目的は、単に「歴史的秘話」に光を当てるだけにとどまらない。近い将来、新スタジアム建設を望んでいる地域の人々にとっても、AFHが遺した教訓は極めて有効と考えた次第。ゆえに広島のファン・サポーター以外の方々にも、広く読んでいただきたい。(取材日:2024313日、オンラインにて収録)

■起点となった2002年ワールドカップでの候補地除外

──今日はよろしくお願いします。広島のEピースについては、さまざまなメディアが取り上げていました。スタジアムそのものの素晴らしさや斬新さについては、すでに多く語られているんですが、なぜ街なかにサッカー専用スタジアムが作られたのか、という根源的な問いかけが非常に少なかったように感じます。というわけで今回、どのメディアも取り上げていなかった「当事者」として、またろさんにご登場いただくことになりました。

またろ 光栄です(笑)。

──さっそくですが、広島の街なかに新スタジアムを作るというプロジェクトを振り返る時、起点はどの時代になるのでしょうか?

またろ 「広島にサッカースタジアムを」という話は、ずっと昔からあったんですが、大きなきっかけとなったのは、2002年ワールドカップの開催地選びで広島が立候補から外れたことです。ご存じのとおり、広島は「サッカーどころ」という強い自負がありましたから、県協会を中心に「なぜなんだ!」という声が出たんですよ。

──当時JFA会長だった長沼健さんは広島出身でしたし、平和都市・広島での開催にFIFAのアヴェランジェ会長(当時)も非常に前向きだったと聞きます。けれども規定により、開催地になるには屋根付きのスタジアムが必要で、当時の(平岡敬)市長が財政難を理由に、ビッグアーチの屋根かけ改修を断念。結果として候補地から外されたんですよね。

またろ そうです。それで次の市長が秋葉(忠利)さんだったんですが、2期目の選挙の2003年に「サッカー専用スタジアム建設を検討したい」という公約を掲げて再選されたんですね。この年、サンフレッチェは最初のJ2降格を経験するんですが、県と市と商工会議所、そしてサンフレッチェなどが「スタジアム推進プロジェクト」を立ち上げて、検討を進めることになりました。そこで事務局長となったのが、サンフレッチェのGMから顧問になっていた今西和男さん。

──今西さんといえば、2007年に広島の顧問を退任して、FC岐阜のGMに就任しているじゃないですか。任期中、スタジアム建設の目処が立たなかったことも、広島を離れる理由のひとつになったのでしょうか?

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