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【無料公開】より重視すべきは「選手の自主性」? レジー(『日本代表とMr.Children』著者)<3/3>

サッカーを語っていない「ジャパンズ・ウェイ」

──今大会の日本代表の結果で、非常にメリットを得た人たちといえば、本田圭佑であり、AbemaTVでの全試合無料配信を決断した藤田晋さんであり、そしてJFAの田嶋幸三会長だったと思います。これは近い筋から聞いた話ですが、田嶋さんはワールドカップ最終予選の間、ずっと酒を断っていたそうです。おそらく健康上の問題ではなく「願かけ」だったと思いますが。

レジー それくらい追い詰められていたんでしょうか?

──ホームのオマーン戦、そしてアウェイのサウジ戦で敗れて、森保さんに思い切り逆風が吹いていたじゃないですか。相当なプレッシャーがあったのは間違いないです。結果として、森保体制でワールドカップ出場を決め、さらには本大会ではドイツとスペインに勝利。JFAが推し進めてきた「ジャパンズ・ウェイ」が結果を出した──。そういうロジックが、今大会の結果で立証されたわけですから、田嶋さんとしては万々歳でしょう。

レジー 「ジャパンズ・ウェイ」に関しては、JFAが『ナショナル・フットボール・フィロソフィーとしてのJAPAN’S WAY』という資料を公開していますよね。今日のインタビューに先立って内容を確認したんですが……

──いかがでしたか?

レジー ちょっと拍子抜けというか、サッカーそのものについては、ほぼ内容がないですよね(笑)。「ジャパンズ・ウェイ」という考え方についての批判は、いろいろ目にしますけど、実際には批判することすら難しい抽象的なものなのかなと。「選手の自主性」という話は強調されているように思いましたが、それも「そりゃ自主性は、ないよりあった方がいいのでは」くらいの話だと思うので。

──「選手の自主性」という点では、森保体制以前だと、2006年のワールドカップで日本代表を率いたジーコ監督が思い出されますよね。何度か指摘してきたことですが、森保さんとジーコって、けっこう似ているところがあると思っています。メンバーをずっと固定しているかと思ったら、何かのタイミングで総取り替えするところなんか、特に。

 ただし選手に関していうと、やはり時代というか世代の違いというものが感じられます。わかりやすい例でいうと、ジーコ監督時代には中田英寿という強烈な個性があり、本番でチーム内の分断を生むきっかけとなってしまった。けれども森保さんが監督の時のメンバーは、良くも悪くも同調意識が高い集団でした。

レジー そういえば資料の中に「強烈なエゴを打ち出すのは日本サッカーにはそぐわない」みたいな文章が唐突に出てくるんですね。それって、2006年のヒデのことだったんでしょうか?

──恐らくそうだと思いますよ。あるいは本田圭佑かもしれないけど。他にレジーさんが気になった部分ってあります?

レジー 議論の価値がありそうな部分で言えば、アマチュアとプロの2つのピラミッドがあって「両者の距離が近いのが日本の良さである」みたいな論の立て方でしょうか。

──だからこそ「日本代表は規範とならねばならない」という話の流れですよね?

レジー そうです。アマチュアの見本になるべきということが、特に重視されている状況が何を意味するのか、そこの部分を考える必要があるなと思いました。

──もう少し詳しく、説明していただけますか?

レジー アマチュアにとっては「自由に楽しくプレーすること」が当然大事ですよね。で、アマチュアとプロの距離が近いとするならば、それはおそらくプロにも「選手が自由にプレーすべし」という考え方が、ある程度は前面に出てこざるを得ない。ただ、この発想は必ずしも「チームとしてワールドカップに勝つ」という目的と一致するとは限らないわけです。

 むしろ監督が、きちんと戦術を組み立てた方がいい場合も、当然あると思うので。このあたりの齟齬を、田嶋さんもしくはJFAが、どうコントロールするのかというのは気になります。ちなみに、このコンセプトが今後も維持されるのであれば、合議制を重視する森保さんは代表監督としてうってつけですよね。他にやれる人がいない、とも言えますが。

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