宇都宮徹壱ウェブマガジン

【無料公開】『電通とFIFA』の著者が語る 「スポーツ村のドン」高橋治之の原点<1/2>

 今週は当初の予定を変更して、2016年4月16日に公開した「『電通とFIFA』を結びつけた日本人の軌跡 田崎健太(ノンフィクション作家)インタビュー」を、一部編集の上、無料公開とすることにしたい。

 この企画は『電通とFIFA サッカーに群がる男たち』について、著者の田崎健太さんに語っていただいたもの。インタビューの中心は、当時話題になっていたFIFA上層部による汚職事件であった。そんな6年前のコンテンツを、このタイミングで無料公開するのはなぜか? それは本書の主人公が、電通の元専務、高橋治之氏であったからだ。

 高橋氏といえば東京オリパラ組織委員会の理事時代、大会スポンサーのAOKIホールディングス側から多額の賄賂を受け取ったとする受託収賄容疑で、今月17日に東京地検特捜部に逮捕されたばかり。その後、この「スポーツ村のドン」に関しては、さまざまな報道がなされてきたが、なぜ彼が「ドン」たり得たのかについての言及はほとんどない(あったとして実に漠然としたものばかりだった)。

 高橋氏に関して言及するならば、彼が1970年代からスポーツ界、とりわけFIFAにコミットしていった経緯についても、しっかり理解する必要がある。その最適な資料となるのが、6年前に田崎さんが世に送り出した『電通とFIFA』。今、読み返しても古びていないどころか、さまざまな点と点が結びついてゆく新たな発見さえある。そして「スポーツ村のドン」高橋治之の原点についても、本書を通じて確認できるはずだ。

 著者の田崎健太さんは、1968年生まれのノンフィクション作家。早稲田大学法学部卒業後、小学館の『週刊ポスト』編集部を経て99年に独立。以後は『W杯に群がる男たち巨大サッカービジネスの闇』『偶然完全 勝新太郎伝』『ザ・キングファーザー』など、数多くの骨太のノンフィクションを発表し続けている。

 長年、FIFAとスポーツビジネスについて取材してきた田崎さんにとり、本書はひとつの集大成という意味合いがあったはずだ。このインタビューでは「電通とFIFA」というメインテーマのみならず、知られざる日本スポーツビジネス黎明期の話、さらにはワールドカップ招致活動の「闇」についても語っていただいた。(取材日:2016年3月22日@東京)

<1/2>目次

*新しいFIFA会長は「消去法」で選ばれた?

*お互いを認めていた高橋治之とジャック坂崎

*「人対人」だったスポーツビジネスの黎明期

<1/2>の写真は著者近影以外、すべて田崎氏にご提供いただきました。

新しいFIFA会長は「消去法」で選ばれた?

──今日はよろしくお願いします。発売から1週間以内で、増刷3000部が決まったそうですね。FIFAの汚職事件や会長選挙といった追い風もあったと思いますが、電通という大企業名もタイトルに持ってきて、日本人にもとっつきやすいテーマにしたことが大きかったと思います。その点は意識されましたか?

田崎 そうですね。2006年に『W杯30年戦争』を出した頃は、まだまだネットから十分な資料を見つけるのが難しかったんですよ。あの本を出して以降も、定期的にいろんな資料を集めていたんですが、いつしかFIFAと電通とがリンクする真ん中にいた高橋治之さんを中心に、この2つの組織について書けないだろうかと考えるようになりました。

──高橋さんのお話は後ほどじっくり伺うとして、先ごろ行われたFIFA会長選挙で、UEFA出身のインファンティーノ氏が新会長に選ばれました。ブラッター前会長よりも35歳も若い人物が選ばれたわけですが、この結果を田崎さんはどう見ていますか?

田崎 まぁ結果的に言うと「消去法」だったと思うんですよね。UEFAの人間がならざるを得ないと思っていましたし、(UEFA会長の)プラティニが出馬できない以上、その後継者たる人間にするしかないという落としどころですよね。あとは若いことと、FIFAの悪癖に染まりきっていないだろうということ。逆にプラティニが会長になったとしても、改革は難しかったと思います。

──アジアからFIFA会長が選出される可能性は、やはり低かったでしょうか?

田崎 ヨルダンのアリ王子とかですか? 言語道断でしょ(笑)。申し訳ないけど、そうした非民主的な国から出てきた王族の人が、民主主義の組織を理解できないでしょう。だから僕はAFCが彼を推薦したのには大反対でしたよ。

──新会長が決まって、FIFAの浄化というものは期待できると思いますか?

田崎 そうせざるを得ないでしょうね。いろんな見方があると思うんですけど、今回の汚職追求はアメリカないし国際社会のレッドカードだと思うんですよ。当然、スポンサーも(FIFAに)嫌気がさしてくるわけで、彼らを離さないためにも何らかの自浄作用は必要になってくると思います。

──この本にも書かれていましたけれど、今回ジーコが立候補の意思を表明しながら、最終的に推薦を得られず、立候補を断念しました。あのレースの中にジーコが加わっていたら、また違った展開になっていたと思いますか?

田崎 面白くなっていたと思いますね。ジーコの場合、プラティニのように長くサッカービジネスやサッカー政治にどっぷり漬かっていた人ではなくて、あくまで元プレーヤー代表として声を上げようとしていたので。ただ、ジーコが本当にFIFAを変えられるかと問われると、それはわからないです。

──JFAがジーコを推薦しなかったことについては、田崎さんはこの本の中でも批判的な意見を書かれていました。

田崎 もちろんJFAに事情があったのは理解しますよ。でも、たとえジーコに投票しなくても、せめて推薦だけでもすればいいのに、とは思いましたね。元日本代表監督であり、日本サッカーの恩人でもある彼が、FIFAの腐敗に対して声を挙げていたわけですから。それなのに、ジーコに対してJFAがつれない態度をとったことについては、ちょっと寂しいなと思いました。

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