宇都宮徹壱ウェブマガジン

Jリーグにあってジャニーズ事務所になかったもの 前チェアマンの『天日干し経営』とは何か<1/3>

 先週、こちらでポストしたとおり、新しい書籍のタイトルは『異端のチェアマン 村井満、Jリーグ再建の真実』に決まり、めでたく情報公開となった。発売は125日。私のオンラインショップ「徹壱堂」でも、発売1カ月前から予約受け付け開始予定なので、楽しみにお待ちいただきたい。こちらからお買い上げいただいた方には、もちろん直筆サイン入りでお届けする。

 今週は、村井さん自身による初の書籍『天日干し経営 元リクルートのサッカーど素人がJリーグを経営した』についてのインタビューをお届けする。すでに書評や著者インタビューは出ているかもしれないが、本書に関して村井さんに最初に取材を申し込んだのは当WM。ボリュームと密度についても、本稿を超える著者インタビューはおそらく出てこないだろう。

 本書のタイトルにもある「天日干し」というのは、平たくいえば「情報公開」である。最後のソビエト連邦書記長、ミハイル・ゴルバチョフによる改革(ペレストロイカ)が、情報公開(グラスノスチ)と対を成していたように、村井さんのJリーグ改革も「天日干し」という名の情報公開が必要だった──。というのが、取材する前の私の認識だった。

 しかし、その見立ては全体の半分でしかなかった。実は「天日干し」とは、組織の情報公開だけでなく、個人のパーソナリティや考え方を完全に晒すことでもあったからだ。この発想があったからこそ、「サッカー村」のアウトサイダーだった村井さんは、Jリーグのチェアマンという重責を4期8年も務めあげることができた。その理由については、本稿でご確認いただきたい。

 本書を読んで痛切に思うのが、もしジャニーズ事務所に「天日干し」の発想があったなら、これほど問題がこじれることはなかった、ということだ。村井満著『天日干し経営』は、Jリーグやスポーツビジネスに関心にある人だけでなく、さまざまな業界のガバナンスに関わる、すべての人が手に取るべき啓発の書である。(取材日:2023925日@埼玉)

IRや広報活動と「天日干し」は何が違うのか?

──村井さん、このたびは書籍デビューおめでとうございます。こうして自著を手にしてみての感慨は、いかがでしょうか?

村井 これまで宇都宮さんをはじめ、インタビューは数多く受けてきましたし、新聞などへの寄稿もありました。けれども一冊の書籍として、自分の経営哲学や経営思想を振り返るとなると、まあまあ苦労しました。

──執筆期間は2週間くらいだったそうですね。私が今度上梓する書籍は1年近くかかっているので、すごいなあと思いました。

村井 私の本はビジネス向けですからね。最後は山籠りみたいな感じでしたが、それまでバラバラだったものが、ひとつにつながっていった手応えはありました。リクルートに入社してから今に至る、40年間のキャリアを振り返った時、さまざまな激動の時代がありました。リクルート時代の30年間もいろいろなことがありましたし、そこからJリーグというまったく異なる世界に門外漢として飛び込んで、さらに今は日本バドミントン協会。

──40年間の最後の10年間は、まさに変化の連続でしたね。

村井 私のような門外漢が、まったく未知の舞台で何かをやろうとした時、多くの人たちの協力を得られないとお話にならないわけです。そのためには、自分の思想や哲学を積極的に晒していくことで、共感や支援を集めていく。どんなに畑違いの分野であっても、そのやり方というのは間違っていないんだということは、この本を書いていてあらためて気付かされましたね。

──そうすると「天日干し」というのは、単に組織の情報公開というだけではなく、自分自身の内面も晒すということなんでしょうか?

村井 そうです。組織の情報公開ということでいえば、IRや広報活動でオープンにするわけですが、その多くは差し障りのないものになりがちですよね。そうではなく、いいことも悪いことも、あるいは経営者の迷いや葛藤も含めて、すべてを「天日干し」にする。それは、自分にとって都合のいいことを発信するのとは、まったく逆の発想なんですよね。

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