三笘薫の「1ミリの奇跡」はどのように可視化されたのか? 「ホークアイ」の技術力がスポーツにもたらすもの<3/3>
■VARの技術とトレーニング、そして海外の「インシデント」を提供
──山本さん、ここまでの解説、ありがとうございました。思えば今回のワールドカップは、ゴールラインテクノロジーやVAR判定が非常に注目された大会でした。関連した技術を開発したのが、実はソニーグループであり、さまざまな競技にも展開されていることを初めて知りました。またトラッキングの技術についても、われわれサッカーファンは「走行距離」のイメージが強かったのですが、実は多方面での活用方法があることを知ることができました。
山本 解説させていただいた甲斐があったみたいで、よかったです(笑)。
──そこでここからは、お話を伺っていて疑問に思ったことを質問させていただきたいと思います。先ほども説明がありましたが、ソニーといえば音楽や映画といったエンタテインメントと密接に関わりながら技術力を高め、ファンを獲得してきたように思います。おそらくスポーツについても同様に考えていると思いますが、一方で「若者のスポーツ観戦離れ」のようなものが、業界でも懸念されています。山本さんのお考えはいかがでしょうか?
山本 スポーツの人気度というものは、よくTVの視聴率や競技人口なんかで測られることが多いと思います。けれども私は、単にそのスポーツが飽きられているのではなく、消費者のライフスタイルが変わってきているのではないかと感じています。音楽や映画と同じで、いつでもどこでも、その人の好きなタイミングで楽しみたい人が増えているのではないかと。もちろん実際にスタジアムに行って、リアルタイムで楽しみたいという方々もいらして、両方の楽しみ方をサポートしたいと思っています。
──それこそ最近は「90分のフルマッチよりもダイジェストのほうがいい」という若いファンが増えているらしいですが(苦笑)。
山本 確かにそういう傾向もあるようですけれど、一方でコンテンツをパーソナライズして自分たちで発信していく「ウェブ3.0」的な動きが、若者を中心に増えていますよね。著作権の話はいったん置くとして、そういった動きに対して、われわれが提供できるサービスというものが、まだまだあるのではないかと思っています。
──イメージとしては、サッカー系YouTuberと呼ばれる人たちですね? それこそホークアイさんの技術が提供されれば、スポーツ観戦のリテラシーがかなり底上げされるようになるかと思うんですが。
山本 そうなる可能性はあると思いますが、われわれが「今すぐやりたい!」といってできる話ではないですよね(苦笑)。その流れで言えば、DAZNやYouTubeで判定に関して議論・解説する番組があるじゃないですか。私も大好きなんですが、VARが浸透したことによって、議論がより深まっているように感じます。そういったところでも、われわれの技術が多少なりとも貢献できているのかなって感じるところはあります。
──JリーグやJFAとは現在、どのようなリレーションシップをされているのでしょうか?
山本 お話できるって範囲でいうと、JリーグさんにVARはご提供しています。それと先ほどお話したラグビーのHIAですが、サッカーでも脳震盪のリスクは当然ありますので、Jリーグさんでも必要となればいつでもご提供できます、というお話はさせていただいています。それからJFAさんに関して言えば、われわれにはVARレフェリーのトレーニングのノウハウがありますので、定期的にご提供させていただいています。
──VARレフェリーのトレーニングですか? それはほとんど知られていない話ですよね?
山本 加えていえば、われわれは世界中でVARの技術を提供させていただいていますので、さまざまなインシデントを「教材」として提供させていただいています。たとえばですが、JFAさんから「過去にこうしたインシデントはありますか?」という問い合わせがあれば、すぐに類似するケースを共有させていただいています。
これも余談ですが、JFAの皆さんはVARの導入に関して、しっかりトレーニングされていますね。海外なんかですと、たとえばドイツとかイタリアあたりでは、VAR判定に対する批判がメディアを賑わすことがあるんですが、日本ではゼロではないものの、そういったケースは少ないように思えます。JFAさんの真摯な取り組みが、VARのスタンダード化につながっているのかもしれません。
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