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【無料公開】『電通とFIFA』の著者が語る 「スポーツ村のドン」 高橋治之の原点<2/2>

【無料公開】『電通とFIFA』の著者が語る 「スポーツ村のドン」高橋治之の原点<1/2>

<2/2>目次

*2002年招致合戦は「日韓共催」しかなかった

*ジェニングス著『FIFA 腐敗の全内幕』の問題点

*「捏造記事を許すな」をあえて書いた理由とは?

2002年招致合戦は「日韓共催」しかなかった

──時代は飛んで、田崎さんが週刊誌の記者として2002年のワールドカップ招致の取材を始めた頃、当時FIFAの会長だったアベランジェさんにインタビュー取材を試みるわけですが、よく会えましたよねえ!

田崎 ものすごく軽い気持ちで会いに行きましたからね(笑)。会ってみると、すごくいい感じのお爺ちゃんで、僕も当時は言葉ができなかったので、向こうの言うままでしたよ。その後、ポルトガル語が話せるようになってからは、直接厳しい質問をぶつけてケンカになりましたけどね(笑)。

──当時、2002年の招致活動で日本と韓国がデッドヒートを繰り広げていたわけですが、アベランジェ周辺を取材していた田崎さんは、どっちが有利だと感じていましたか?

田崎 僕は日本が勝つと思っていましたね。実際、日本の招致提案書を見ても明らかでした。それが「共催」という非常に理不尽な結果になるまで、僕も日本が勝つだろうと。ただ、僕はヨーロッパの状況までは知らなかった。実際、ヨーロッパに行けば、UEFAサイドがアベランジェに対抗するべく共催に持って行こうとしているデータや資料はあったんですよね。そこを読みきれなかったのは僕の反省点です。

──あの招致活動では、日本がどうあがいても共催になる運命だったと。

田崎 そう思います。ヨーロッパの意向がそうでしたからね。「日本は有利かもしれないけれど、アベランジェがバックにいるから勝たせるわけにいかない」と。そうしたら共催しかないじゃないですか。あるいはウルトラCで共催を返上して、韓国単独開催が失敗して「それ見たことか」と言うしかない(笑)。

──それって、誰も幸せになりませんよね(笑)。後付けですが、あの招致活動で日本はどうすれば良かったと思いますか?

田崎 うーん、アベランジェと距離を置く、くらいしかなかったんじゃないでしょうか。でも、それにはやっぱりFIFAの中に理事を送り込まなければならなかった。(FIFA副会長だった)チョン・モンジュンに対抗できるだけの言葉を持った日本人が、あそこにいなければ勝負にならないですよ。そう考えると、共催というのが日本にとって、ぎりぎりの「いい線」だったのかなという気がしないでもないです。

──その後のワールドカップの開催国決定も、何だか怪しい話が常につきまとっているじゃないですか。2006年ドイツ大会でも招致活動に不正があったという報道がありましたし、2010年の南アフリカ大会でも収賄がありましたよね。その後のロシアやカタールも、怪しげな金が流れていたと考えるのが自然だと思いますが。

田崎 一番酷いのは2022年のカタールじゃないですか。僕は10年の南アも14年のブラジルも、普及という面で考えれば開催するべきだったし、ロシアについても百歩譲って東ヨーロッパで開催する意義というのはあると思うんです。でもカタールについては、それがまったくない。

 ジーコも言っていましたが、観客が数えるほどしかいないサッカー不毛の国でワールドカップを開催して、いったい誰が喜ぶんだという話です。そのために世界のカレンダーを変更するなんて言語道断ですよ。そもそも今回のFIFAの役員摘発のきっかけとなったのも、カタールがきっかけでしたしね。

──このまま突き進んでやるでしょうかねぇ、カタールで。

田崎 いや、まだわからないですよ。ただ、僕は絶対やるべきではないと思っていますね、あの国では。

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