三笘薫の「1ミリの奇跡」はどのように可視化されたのか? 「ホークアイ」の技術力がスポーツにもたらすもの<1/3>
今週は当WMでは珍しく、スポーツテクノロジー系の話題を提供したいと思う。まずはこちらの動画(2分43秒)からご覧いただきたい。
いまやサッカーファンの間でも、すっかり定着した感のあるVAR(ビデオ・アシスタント・レフェリー)。昨年のワールドカップ・カタール大会では半自動オフサイドテクノロジー、そしてゴールラインテクノロジーなど、ビデオリプレイやトラッキングの技術を駆使したジャッジが世界的な注目を集めていた。スペイン戦での三笘薫による「1ミリの奇跡」は、まさに象徴的な出来事だったといえよう。
これらの技術を提供していたのが、ソニー株式会社傘下のグループ会社『ホークアイ』である。ソニーといえば、古くはトランジスタラジオや『ウォークマン』、最近ではデジタルカメラの分野で技術力を発揮している。また、音楽や映画やゲームなど、数多くのエンタテインメントを世に送り出してきた歴史もある。
そんなソニーのグループ会社が、サッカーをはじめとするスポーツの分野に深く関与し、さまざまな国際大会やリーグ戦に高い技術力を提供している。この事実、意外とサッカーファンには知られていないのではないだろうか?
そこで今週は、ホークアイ・アジアパシフィックのヴァイスプレジデント、山本太郎さんに直撃。まず<1/3>と<2/3>で、ホークアイの技術力と活用例について山本さんに語っていただき、<3/3>で質疑応答という構成を採用した。なお、本稿で使用したビジュアルは、山本さんの写真を除いてすべて、ソニー株式会社からの提供である。(取材日:2023年2月8日@東京)
■トラッキング技術の発達で全豪オープンの線審が消えた?
ソニー株式会社のスポーツビジネスは、傘下のグループ会社である『ホークアイ(Hawk-Eye Innovations)』、そして『パルスライブ(Pulselive)』」と昨年11月に買収した『ビヨンドスポーツ(Beyond Sports B.V.)』の3社を中心に行われています。
まずホークアイですが、主に審判判定支援サービスやデータ取得サービスなどを提供しております。わかりやすいところでいえば、テニスのライン判定や、サッカーのVARや半自動オフサイド技術、ゴールラインテクノロジーも当社の技術です。
次にパルスライブですが、各種競技団体などにデジタルプラットフォームを提供しております。ラグビーおよびクリケットのワールドカップの公式ウェブサイトのほか、イングランド・プレミアリーグのモバイルアプリなど、日々多くのスポーツファンがアクセスするデジタルプラットフォームの作成や開発、管理を行っています。
そしてビヨンドスポーツですが、AIベースでスポーツデータの分析と可視化を行い、新たなスポーツ体験を提供しています。リーグ、放送局、そしてコンシューマー向けに、試合のデータをもとにリアルタイムでバーチャルコンテンツを作成して、従来型のメディアからメタバースに至るまで、さまざまなスポーツコンテンツを提供しています。
これら3社によるシナジー効果でスポーツ事業をやっていこう、というわけですね。
ここからは、ホークアイの技術についてお話します。大きく3つあって「ビデオリプレイ」「トラッキング」「データ活用」となります。それぞれについて、簡単に解説しましょう。
まずビデオリプレイですが、「SMART(シンクロナイズド・マルチアングル・リプレイ)」と呼ばれる技術を活用しています。これはTV放送で使われている映像をサーバーに入れて同期させることで、特定のプレーシーンをさまざまなアングルから再現するというものです。サッカーでいえばVAR、ラグビーでいえばTMO(テレビジョン・マッチ・オフィシャル)をイメージしていただければ、わかりやすいと思います。
次にトラッキングですが、これはボールや選手の動きを捕捉するものです。たとえばテニスですと、トッププレーヤーのボールのスピードが時速200キロを超えることもあります。ラインを割ったか、割らなかったかという肉眼だと判別しにくいシーンでも、ホークアイのトラッキング技術であれば正確かつ瞬時に判定します。その誤差は2ミリ以内で、しかもトラッキング処理からわずか数秒後には、再現CGを作成することができます。
最後にデータ活用。これはデータの取得から照合、集約、配信、可視化などのサービスでして、主にチームにおけるパフォーマンス分析やTV放送の解説などでご利用いただいております。ホークアイのこのサービスは、MLBの全球団で使われていますが、プロ野球でいち早く活用されたのが東京ヤクルトスワローズさん。ボールの動きや選手の骨格情報など、さまざまな情報を数値化したり、トラッキングデータと映像を同期したりできるので、トレーニングや試合などで活用していただいています。
こうした技術の向上によって何が起こるかというと、たとえばテニスの全豪オープンでは2021年から、線審がいなくなってライン判定は自動化されました。とはいえ、線審をなくすことが、われわれの目的ではありません。
たとえば以前なら、選手が試合の流れを変えるために、判定が明白な場合でも「チャレンジ」(編集部註:審判のライン判定に不服があった場合に、選手がデジタル画像の判定を要求できるシステム)を使うことがありました。ライン判定をトラッキング技術で行うことで、試合のスムーズな運営を促進し、ひいては競技のフェアネスにもつながったと考えます。
(残り 1470文字/全文: 3780文字)
この記事の続きは会員限定です。入会をご検討の方は「ウェブマガジンのご案内」をクリックして内容をご確認ください。
ユーザー登録と購読手続が完了するとお読みいただけます。
会員の方は、ログインしてください。
外部サービスアカウントでログイン
Twitterログイン機能終了のお知らせ
Facebookログイン機能終了のお知らせ