三笘薫の「1ミリの奇跡」はどのように可視化されたのか? 「ホークアイ」の技術力がスポーツにもたらすもの<2/3>
■ピッチャーの投球もボールの動きもバットのスイングもすべて数値化
先ほどヤクルトさんが、われわれが提供したトラッキングデータを、トレーニングや試合などで活用していただいていることをお話しました。ヤクルトさん以外の球団でも、最近はわれわれのデータを活用していただいております。少し具体的に解説したいと思います。
まず、球場に8台のカメラを設置します、キャッチャーの後ろに1台、センター方向から1台、あとは1塁側と3塁側に3台ずつ。それぞれピッチャーとバッター、野手とボールの動きを押さえるということですね。そこから得られるトラッキングデータを列挙すると、こんな感じです。
1)リリース時のスピード
2)ボール回転数・回転方向・軸/軌跡
3)投球の水平、垂直方向の変化量
4)リリースポイントの高さ・位置(横・前後)
5)リリース時のアングル(水平・垂直方向)
6)ホームプレート通過時のボール進入方向・角度
7)ホームプレート通過時のボール位置情報
8)ボールとバットのコンタクトポイント情報
9)打球スピード
10)打球角度・方向
11)打球回転数
12)打球飛距離
13)バットのスイングスピード
14)バットのスイング開始時から打球のインパクトまでの時間
15)バットのスイングの平均加速度
16)投手の投球時の手首、前腕、肩の位置
17)投手・打者・野手含めた全選手の位置・骨格情報と動作
※13)~17)はフレームレートが300fpsのハイスピードカメラの場合のみ
最後に出てくる「骨格情報」ですが、野球の場合ですと全身の18の関節ポイント、そして「センター・オブ・マス」と呼ばれる中心点、合計19ポイントで測定します。これがサッカーですと、もう少し進んでいて29ポイントとなっています。
たとえばピッチャーの投球、ボールの動き、そして打者のバットのスイング。すべては複数のカメラによってXYZ軸で数値化されているわけですね。それを連続してトラッキングしたものが、すべてデータとして取り込まれていく。結果、フィールドで起こっていることすべてが、数値化されていくことになります。加えてAIも学習していますから、データがたまるたびに精度もどんどん上がっていくわけです。
こちらは、センター側から当初の背面を捉えた映像で、その隣にすべての投球データが数値として表示されています。たとえば、ホームランを打たれた時の投球。リリース時のスピード、ボールの回転数と回転方向、ホームプレート通過時のボール進入方向と角度。いずれも数値だけを見れば、納得できる投球だったにもかかわらず、それでも打たれてしまったのはなぜだろう? そこで今度は、画像を拡大してボールの握りや、リリース時の指の引っかかり方などを検証して、投手とコーチがディスカッションする。そんなことも、チーム内では行われているようです。
もっとも現行のルールですと、試合中のデータ分析をその場で反映させることはできないんです。たとえば「A投手は50球を超えると肘が下がって、怪我のリスクになる」とか、「B投手は30球で腕の振りが遅くなっているから、早めに代えたほうがいいんじゃないか」とか、そういうことはできないんですよね。ただしトレーニングや試合後の検証では、こうしたデータというものが活用されているのは間違いないと思います。
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