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発売直前『異端のチェアマン』を会員限定で公開 プロローグ されどJリーグは生き残った<2/3>

発売直前『異端のチェアマン』を会員限定で公開 プロローグ されどJリーグは生き残った<1/3>

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【出演】村井満(前Jリーグチェアマン)、原博実(前Jリーグ副理事長)、佐伯夕利子(前Jリーグ理事)、宇都宮徹壱【MC】日々野真理
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(前売券が完売した場合、当日券の販売は未定です)

開幕から20周年のJリーグには「カネがなかった」

 村井の前任者である大東が、Jリーグチェアマンの任にあったのは、2010年から14年まで。就任2年目の2011年には、東日本大震災によるリーグ戦の中断があり、さらに2年後の13年はJリーグ開幕20周年の記念事業が相次いだ。

 そして2012年から、専務理事の中野と共に大東を支えていたのが、大河正明と中西大介というふたりの理事。このうち財務面を担ってきた大河は、チェアマンとしての大東をこう評している。

「ご自身が先頭に立って、何かを決断するという感じではなかったですね。大東さんの時代は、僕なり中西なりが実務的なところで動いて、それが機能していたんです。そういう意味では、上手く前に進んでいたのは確かなんです。けれども残念ながら、当時のJリーグ本体にはカネがなかった」

 大河がいう「当時」とは、Jリーグが20周年を迎えた2013年を指す。

 ここで少し長くなるが、驚くほどに危機的だった、当時のJリーグの台所状況を解説しておきたい。これを理解しておかないと、Jリーグが「異端のチェアマン」を受け入れざるを得なかった背景が見えてこないからだ。

 まず、Jリーグの収入について確認しておく。

 Jリーグに加盟する、クラブの主な収入源は、パートナー(スポンサー)企業による協賛金、入場料、物販、そしてリーグからの分配金。これに対してJリーグは、加盟クラブから支払われる会費、放映権料、そしてパートナー企業からの協賛金の3本柱である。

 加盟クラブの数は年々増加していたが、増えれば増えるだけ各クラブへの分配金は目減りする。放映権料については、J1J2の全試合を中継するスカパー!を中心に、NHKTBSを加えた3社で5年契約。年間50億円ほどの収入がある。再び、大河。

「放映権については、地上波での放送はほとんどない状態。当時はCSのスカパー!さんと5年契約を結んでいて、減ることはないけれど増えることもありませんでした」

 問題は、協賛金。これまで看板などの広告枠は、開幕前から伴走してきた広告代理店の博報堂が販売権を独占し、Jリーグとミニマムギャランティ契約を結んでいた。ミニマムギャランティ契約とは、広告枠が埋まらなくても最低限の金額を保証するというもので、実質的に博報堂が赤字を補填する状態が続いていた。

 この契約が、2013年に見直されることなったと、大河は語る。

「それまで博報堂さんとは、40億円くらいでミニマムギャランティ契約を結んでいました。それが博報堂さん1社では無理という話になって、新たに電通さんも入ってもらったんだけど、それでも広告枠を埋めることはできなかったんですね。クラブの数も増える一方で、これは分配金をカットするしかない、というくらいの厳しい状況でした」

 ちょうどこの頃、Jリーグの成長戦略を検討する「Jリーグ戦略会議」が、Jリーグのチェアマンと理事、JFAJクラブの代表者を招集して定期的に行われていた。その中で、協賛金などの減少により「このままでは2014年から、Jリーグは13億円減収する」という、衝撃的な報告が上がってくる。これが「2ステージ制」と呼ばれる、2ステージ+ポストシーズン制導入に向けた議論に拍車をかけることとなった。

「僕自身『2ステージ制』という判断が、必ずしも正しいとは思わなかったし、ファン・サポーターの皆さんからも、さまざまなご意見をいただきました。けれども、お客さんを集めるためには、ファースト、セカンド、年間という3つの山(=優勝決定)を作るべきではないかと。ただし5年も10年も続くという話でもなく、まずは3年くらいやってみようという感じでしたね」

 当時のチェアマン、大東の回想である。

(残り 3980文字/全文: 5772文字)

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