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Jリーグにあってジャニーズ事務所になかったもの 前チェアマンの『天日干し経営』とは何か<3/3>

Jリーグにあってジャニーズ事務所になかったもの 前チェアマンの『天日干し経営』とは何か<2/3>

心地よいけれどもリスクもはらんでいる「同質性」

──ここから「天日干し」について、さらに枠を広げて考えてみたいと思います。というのも、ビッグモーターやジャニーズ事務所の不祥事発覚後の対応を見ていると、どちらも隠蔽体質と現状維持の固執が顕著で「天日干し」とは真逆のように感じられるからです。村井さんは一連の不祥事について、どのように見ているのでしょうか?

村井 企業の不祥事って、トップの独断で起こるのは稀だと思うんです。普通は役員がいて、役員会を経て決定されるものですから。ただし、そのメンバー構成が身内で固められていたり、忖度が起こりやすい関係性だったり──。たとえば「この人に引き上げられた恩がある」みたいな感じですよね。そういう人ばかりだと、どれだけ役員がいても意味がないんですよ。

──役員が10人いても、全員が身内だったり、義理や恩があったり、生殺与奪権を握られたりしていたら、トップの意のままになってしまうという話ですね?

村井 そうです。逆に利害関係も貸し借りもない、おかしいことにきちんと異議申し立てができる人がいれば、それは「天日干し」になるわけです。ですので、世の中の不祥事というものは、トップが身内で周囲を固めると起こりやすい、といえるでしょうね。

 この本にも書きましたが、Googleでは世界中の従業員に対して「CEOの方針に共感できるか」という調査をするんですよね。常にトップに物言いできる環境というものが、仕組みとして担保できている。だからトップの暴走や独走は起こりにくく、健全に成長できているわけです。

──「天日干し」がなかなかできない、あるいは自ら率先して実行しようとする機運が生まれにくい理由のひとつに、同質性を求めたがる日本人のメンタリティもあると思うんです。つまり「気心が知れた仲間と仕事がしたい」という傾向といいますか、私自身にもあるわけですが(笑)。

村井 例えば同窓会で、同じクラスや部活の人たちで集まってしまったりするのって、同質性ですよね。もちろん、それで昔話に花が咲くから、悪いことではない。あるいは初対面の人に対して「バドミントンがお好きなんですね。同じです!」という感じで、同質性がきっかけで関係性が生まれることもあります。ですから、同質性そのものが問題ではないんです。

 ところが、組織内で学閥を作ってしまうと他大学卒の人は入りにくいし、男性ばかりだと女性が入りづらくなる。同質性というのは、関係性を維持する上ではとても重要なんだけど、リスクをはらんでいることも理解しておく必要があると思います。仲間同士で経営したほうが、確かにやりやすいでしょうけれど、そのリスクを知っている人を社外取締役に入れるべきでしょうね。

──あえて異質なものを入れることによって、むしろ組織は活性化するということですね? それこそ村井さんご自身、Jリーグにとって異質だったわけですが(笑)。

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