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「今治さんは最大のライバルでありパートナー」 村上茉利江(株式会社愛媛FC取締役)<1/3>

 今週は久々にJクラブにフォーカス。現在、J3で首位を走る愛媛FCの取締役、 村上茉利江さんにご登場いただく。このインタビューは、こちらの記事のために行われたものだが、非常に興味深い内容だったため、独立した記事に再構成してお届けすることにしたい。

 茉利江さんは、1985年生まれで愛媛県松山市出身。東洋印刷とニンジニアネットワーク、そしてのちに愛媛FCの社長を務めることになる、村上忠さんの長女である。大学卒業後、日本IBM、経営コンサル企業のアバージェンスを経て、2016年に父上に呼び戻される形でニンジニアネットワークに入社。愛媛FCに関わるようになったのは2021年からである。

 愛媛FCといえば、同県で同カテゴリーのFC今治とセットで語られることが少なくない。2020年に今治がJFLから昇格し、その2年後に愛媛がJ2から降格したことで、両者のダービー「伊予決戦」が実現。そして今年、今治里山スタジアムがオープンして、そこでのダービーも大いに注目された(結果はスコアレスドロー)。

「岡田武史」というアイコンを持ち、10年も経たずにカテゴリーだけでなくホームタウンの風景を変えてしまった今治。この間の愛媛は降格以外、特に大きなトピックスがなかったように感じられるかもしれない。しかし2017年に現社長が就任し、21年から組織改革が始まり、22年には念願だった芝生の練習グラウンドが完成している。

 こうした地道な変化が、今季のクラブの好調ぶりを下支えしているのは間違いない。そのあたりのことも含めて、今回の茉利江さんへのインタビューが実現したのだが、向かった先は東京・表参道にあるニンジニアネットワークの東京本社。まずはその理由から尋ねてみることにしたい。(取材日:2023727日@東京)

愛媛FCの取締役はなぜ東京を拠点としているのか?

──今日はよろしくお願いします。茉利江さんは、ニンジニアネットワークと愛媛FCで取締役を兼任されているわけですが、お仕事の比率はどんな感じでしょうか?

村上 今は9割が愛媛FCですね。ニンジニアのほうはオペレーションの仕組みもできていますから。定例の会議で方向性をしっかり伝えておけば、私がいなくても社員がしっかり回してくれています。愛媛FCについては、これからどんどん変化していかなければならないので、そこに向けてのパワーは必要です。

──とはいえ、生活の拠点は東京ですよね。東京と愛媛で過ごす割合については、いかがでしょう?

村上 半々ですね。向こうに行ったら、まとめて営業したりイベントに参加したりしたいんですが、自分の都合でコントロールできません。ですので、1週間のうち何度も東京と愛媛を往復しているような感じです。

──会議はオンラインでもできますけど、愛媛FCの仕事が9割ということを考えると、拠点を向こうに移すことは考えなかったのでしょうか?

村上 考えなくはなかったんですけれど、そうしなかった一番の理由は「価値観に染まりすぎない」というものがありました。愛媛の良い面とそうでない面、両方を俯瞰的かつ客観的に捉えるのであれば、あえて離れていたほうがいいと思うんです。それと東京にいたほうが、さまざまな情報が入ってきますし、すぐにキャッチアップできます。いくらネットが普及していると言っても、まだまだ情報の地域格差はありますし。

──確かに、ありますよね。愛媛には取材で何度も行っていますが、わりとのんびりしたところがあって、それが心地よくも感じられるんですよね(笑)。

村上 私も松山出身ですので、よくわかります(笑)。ただし快適であるがゆえに、そこにどっぷり浸かってしまうと、見えにくくなってしまうこともあるんですよ。ホームタウンの価値観を尊重しつつも、客観視する姿勢は保ち続けたいと思います。

──茉利江さんは高校卒業まで松山で暮らしていたわけですが、愛媛FCの存在は昔からご存じでしたか?

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