宇都宮徹壱ウェブマガジン

2020年の1位は、J1:川崎、J2:新潟、J3:今治 Jリーグマネジメントカップ2020を読み解く<1/2>

 間もなく11月となり、いよいよ佳境を迎える2021年シーズンのJリーグ。J1の優勝は間もなく決まりそうだが、ACL出場権と残留争い、そしてJ2J3の優勝と昇格争い(J2は残留争い)は、まだまだ波乱がありそう。そうした中、Jリーグマネジメントカップ(JMC)2020が発行された。

 今週は、このJMC2020を手掛けた、デロイト トーマツ コンサルティングファイナンシャルアドバイザリー合同会社(以下、デロイト トーマツ)の里崎慎さん(左)と小谷哲也さん(右)にご登場いただく。JMCとは何かについては、こちらの動画にまとめたので、ご覧いただきたい。

 当WMでは2年前にも、JMC2018について里崎さんに取材させていただいている(参照)。しかし昨年の新型コロナ感染拡大により、Jリーグにおける経営環境は激変。それがどのように「視える化」されているのか、というのが今回のインタビューの主旨である。

 とはいえ、小難しいビジネスの話ばかりをするつもりはない。JMCでは毎年、各カテゴリーのランキングを発表している。今回は、J1は川崎フロンターレ、J2はアルビレックス新潟、そしてJ3FC今治が1位となった。これらのクラブがなぜ、ビジネスフィールドにおいて高評価を受けたのか。当該クラブのファン・サポーターはもちろん、それ以外のクラブを応援する人にも興味深い内容となっている。(取材日:2021年10月5日@東京)

<1/2>目次

*「コロナ以前と同じKPIを使ってもいいのか」問題

*コロナ禍によって「内部留保を蓄える」方向に転換

*なぜ王者・川崎はビジネスでもトップランナーなのか

「コロナ以前と同じKPIを使ってもいいのか」問題

──里崎さん、小谷さん、今日はよろしくお願いします。まずはこのJリーグマネジメントカップ(以下、JMC)について説明していただけますでしょうか。

里崎 JMCは2014年番から継続して、毎年1冊発行させていただいております。「スポーツの裏側にビジネスがある」といったところを、より多くの方々に感じていただくことが目的です。毎年、Jリーグから公表されているデータを元に、Jリーグ全クラブの入場者数や客単価や勝ち点1あたりのチーム人件費、さらには売上高やSNSフォロワー数など、さまざまな数値を割り出し、デロイト トーマツ グループが独自に設定したKPIにスコアリング。J1J2J3、各ディビジョンでのランキングを発表したレポートになっています。

──里崎さん、ありがとうございます。つづいて小谷さんにお聞きをしたいのですが、なぜデロイト トーマツ グループはJMCを継続的に発行しているのでしょうか?

小谷 まずプロスポーツの数値化というのが、世の中にあまり出回っていないということがあります。私どもの取り組みは、Jリーグが公表している数値から掛け算や割り算をして、ランキング付けをするというものです。公表数値を元にしていますので、不完全なデータや分析があることも重々承知していますが、掛け算や割り算をして見えてくることもあります。それらを見ながらJリーグ関係者だけでなく、ファン・サポーターの方たちにもクラブ経営について議論していただく、きっかけになればと思っています。

──先ほど里崎さんからもお話がありましたように、JMCが初めて発行されたのはワールドカップ・ブラジル大会が開催された2014年。この年は、村井(満)さんがJリーグチェアマンに就任した年でもありました。これは偶然ではなく、必然といえる部分もあるのでしょうか?

里崎 結論から言いますと、偶然なんですけれども、そう言い切れない部分というのもあります。実はデロイト トーマツ グループでは、今から30年以上も前から、スポーツビジネスに特化した部署がUK(英国)にはありました。なかなか日本では、そうした動きがなかったんですが、2013年に東京五輪の開催が決定し、翌年にはチェアマンに就任された村井さんがJリーグのビジネス化に舵を切る方針を鮮明にしました。

 そうした中で、日本のデロイト トーマツ グループとしても何ができないかという機運が高まっていきました。そこで社内の有志が集まってスタートしたのが、われわれスポーツグループの始まりでして、さらに皆さんに還元できるものが作れないかというところで生まれたのが、このJMCだったんですね。ですので、当初からJリーグさんのために作ったというわけではなく、あくまで当社としてできる取り組みのひとつとして、これが生まれたという認識です。

──そして、この2020年版が7冊目。当初は五輪イヤーとなるはずだったのが、コロナ禍によって何もかもが変わってしまったところでのJMCとなりました。これまでの作業とは異なるご苦労が、いろいろとあったのではないかと思いますが、いかがでしょうか?

里崎 われわれ作り手の中でも、このコロナ禍という外部環境の変化に関する議論はありました。コロナ以前と同じKPIを使ってもいいのか、それとも外部環境に則しながら変えていったほうがいいのか、という。

──実際問題、入場者数に関するKPIがいくつかありますけれど、昨シーズンは無観客であったり観客数の上限を設けたり、これまでにない条件がありましたからね。

里崎 おっしゃるとおりです。たとえば、代表的な数値として使っていた「新規観戦者割合」という指標があります。これはJリーグさんが公表されている「観戦者レポート」を元にして、毎年数字を拾ってきていたんですけれども、今回コロナの影響で観戦者レポートが出なかったんです。

──あ、出なかったんですか?!

里崎 出なかったんですよ。それで繰り返しになりますけれど、JMCの基本コンセプトとして、公表された数値を元に分析を行ってきましたけれど、今年はわれわれのKPIが使えなかったケースというものが、実際いくつか出てきてしまいました。

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