宇都宮徹壱ウェブマガジン

「この国のスポーツの序列が変わるかも」タカ植松(在豪ライター) シリーズ 「私はこう見た! FIFA女子ワールドカップ2023」<1/3>

 720日に開幕したFIFA女子ワールドカップも、早いもので残り2試合。819日の3位決定戦(スウェーデンvsオーストラリア)、そして20日の決勝戦(スペインvsイングランド)を残すのみとなった。大会がフィナーレを迎えるのに合わせて、当WMでは3日連続で現地観戦した方々へのインタビューを公開。今大会の多角的な検証を試みる。

 第1回のテーマは「ホスト国」。今大会はオーストラリアとニュージーランドによる、女子ワールドカップ初の共催となった。日本では、なでしこが戦ったニュージーランド側の情報は流れてくるものの、会場数が多いのはオーストラリア。3位決定戦と決勝も、それぞれブリスベンとシドニーで行われる。

 そこでブリスベン在住の在豪ライター、タカ植松さんにホスト国・オーストラリアについてお話を伺うことにした。初めてFIFAの主要大会を開催したことで、ラグビー優位が続いたオーストラリアのスポーツ界はどう変わるのか? 今大会のインパクトによって「この国のスポーツの序列が変わるかも」というのが、植松さんの見立てである。

 そんな植松さんには「フットボール」という表記にこだわりがある。日本もオーストラリアも「サッカー」が一般的だが、このインタビューでは植松さんのこだわりを尊重することにした。なお、文中の写真はZoomのキャプチャを除き、いずれも植松さんからご提供いただいている。(取材日:2023813日、オンラインにて実施)

シドニーとメルボルンとブリスベンに「温度差」がある理由

──タカさん、今日はよろしくお願いします。初めての南半球開催、そして共催となった女子ワールドカップ。日本の試合が行われている、ニュージーランドの情報はわりと入ってくるのですが、オーストラリアについては、そうではありません。そこで今回、ブリスベン在住のタカさんに、そちらの情報について伺いたいと思います。まず、現地の盛り上がりはいかがでしょうか?

植松 大会が開幕するまでは「本当にこれで大丈夫か」ってくらい静かだったんですが、マチルダス(女子オーストラリア代表の愛称)が準決勝まで勝ち上がっていることもあり、これまでのフットボール熱を知る人間にしてみれば異常なくらいに盛り上がっていますね。今大会の開催前には、オーストラリアでは男女のフットボール代表の人気や入場者数で、それほどの差はありませんでした。それが今では、ことごとく観客動員記録を抜き去ることで、マチルダスが完全にサッカルーズ(男子サッカー代表の愛称)を抜き去りましたね。

──オーストラリアでは、やっぱりラグビーがナンバーワンというイメージがあるのですが、国内の人気スポーツということではサッカーは何番目になるのでしょうか?

植松 この国のフットボールの地位というのは、せいぜい4番手争いをするくらいですね。ラグビーもいろいろあって、15人制のラグビーユニオン、日本で言うところの「ラグビー」ですね。国際大会はともかく、国内リーグの人気はそれほどでもないんですよ。むしろ13人制のラグビーリーグが大人気ですし、オーストラリアンフットボール(AFL)もビクトリア州を中心に盛んです。

 こっちでは「お前のコード(Code)は何だ?」って聞かれるんです。「どのスポーツのファンか」という意味なんですけど、僕がフットボールというと「何だ、サッカーのことか」というのが一般的な反応(苦笑)。ただ今大会のマチルダスの躍進が、それらの事実を根底から変えている過程というものを、今まさに感じています。それくらいの熱狂が起きていますね。

──そうでしょうね。逆に、これまでの国内のサッカーの地位の低さが、大会運営に影響を与えていた部分はあったのでしょうか?

(残り 3150文字/全文: 4682文字)

ユーザー登録と購読手続が完了するとお読みいただけます。

ウェブマガジンのご案内

日本サッカーの全てがここに。【新登場】タグマ!サッカーパック

会員の方は、ログインしてください。

1 2
« 次の記事
前の記事 »

ページ先頭へ