宇都宮徹壱ウェブマガジン

『スポーツマンシップバイブル』を夏休み推薦図書に ピッチ外の不祥事が続く中で考えたい「Good Loser」

 新しい書籍の執筆に忙殺されている間に、3冊の興味深い書籍を献本いただいた。なかなか読書の時間が作れないため、本棚に差したままの状態となっている。よって、それぞれの書評は書けないのだが、この3冊から「透けて見えるもの」について、まずは語ることにしたい。

 まず『モダンサッカー3.0 「ポジショナルプレー」から「ファンクショナルプレー」へ』。著者は、アレッサンドロ・ビットリオ・フォルミサーノというペルージャU-19の指導者で、翻訳が片野道郎さん。次に『一流の共通点 スカウトマンの私が見てきた成功を呼ぶ人の10の人間力』。長年にわたりガンバ大阪の育成に携わってきた、二宮博さん初の著書である。そして104度目の正直 甲子園優勝旗はいかにして白河の関を越えたか』の著者は、野球がメインの書き手である田澤健一郎さん。

 サッカー本の2冊は、それぞれ戦術と育成をテーマにした「実用書」という趣である(写真やイラストを一切使わないカバーデザインからして実用的だ)。ポジショナルプレーの次のトレンドが気になる人なら『モダンサッカー3.0』が、サッカーをやっているお子さんがいるとかガンバを熱心に応援している人には『一流の共通点』が、それぞれ刺さるだろう。私はいずれも該当しないので、お世話になっている版元や著者から送られてこなかったら、これらの書籍とは出会えなかったかもしれない。

 一方、高校野球がテーマである『104度目の正直』は、スポーツノンフィクションとして話題になれば、野球音痴の私でも手に取る可能性は高い。著者の田澤さんとは、直接の面識はないものの、私の「土地とサッカー」を題材とした作品を愛読してくれていたとのこと。それがご縁で近著を送っていただいたのだが、高校野球をまったく見なくなった私でも、その面白さと奥深さにぐいぐいと引き込まれていった。

 本書は、秋田、宮城、青森、福島、山形、岩手の東北6県それぞれの甲子園優勝の挑戦の歴史を掘り起こしたもの。一口で東北といっても、各県それぞれに学生野球の歴史があり、その歴史もまた100年以上の歴史がある。山形出身の著者の軽快なフットワークと丹念なフィールドワーク、そしてあふれるほどの野球愛と東北人のプライドがあればこそ、高校野球とは縁のなかった私にも響いたのであろう。

 本当はサッカーで、こういうノンフィクションを読みたい。しかし現状では、ターゲットを囲い込んで具体的な数字が見えないと書籍のゴーサインが出ないという、サッカー界が置かれた現状がある。そこに、わが国における野球とサッカーの「文化の差」を痛感せずにはいられない。こうした構図を、自分が現役である間に何とか打破したい──。そう、あらためて思った次第だ。

 さて、本題。今月に入ってからクラブの大小やカテゴリーを問わず、ピッチ外での残念な事件が相次いでいる。82日の天皇杯ラウンド16での、浦和レッズサポーター乱入事件。12日に発覚した、松本山雅FCでのスポンサーバナー及び入場ゲートテントへの器物損壊事件。そして14日にカターレ富山が声明を出した、所属選手に対するネット上での誹謗中傷事件。

 もちろん、これらは異なるクラブで起こった、個別の事件である。けれども、ピッチ外での不祥事が立て続けに起こったことを、単に「偶然」で済ませてよいのだろうか? むしろ私は、そこに「必然」めいたものを感じずにはいられないのである。

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