【無料公開】2002年ワールドカップと知事選立候補 もしも広瀬一郎が静岡県知事になっていたら<1/4>
今週はGW特集として、11年前に掲載した故・広瀬一郎さんのロングインタビューを4日連続でお届けする(今週のWMコラムはお休みとさせていただきます)。
早いもので、2017年5月2日に広瀬さんが亡くなって、今年で7年となる。直後にWMにて掲載したコラムはこちら。無料部分だけお読みいただいても、いかに広瀬さんがサッカーやスポーツの枠を超えた規格外の人物だったか、ご理解いただけると思う。
このコラムでも触れている《静岡県知事選に立候補した》というのが、今回のインタビューのテーマ。2013年6月16日に投開票が行われた静岡県知事選挙に、広瀬さんは自民党の支援を受けて立候補している。対するは、1期4年の実績を持つ現職の川勝平太氏であった。
結果は、川勝候補の108万609票に対して、広瀬候補は34万5617票。ダブルスコアならぬ「トリプルスコア」での落選となった。その後、川勝氏は4選を果たしたものの、今年4月に職業差別と捉えられかねない発言が問題となり、結果として今月9日に知事を辞職する見通しとなった。
「もしもあの時、広瀬一郎が静岡県知事になっていたら──」
結果が大敗だったとはいえ、4期途中までの実績が雲散霧消してしまうほどの現職の脱力劇を見てしまうと、そうした思いをどうしても拭いきれずにいた。そこで思い出したのが、落選直後に行った今回のインタビュー記事。蔵出しして読み返すと、これが実に興味深く、かつ古さをまったく感じさせないものであった。
それまでスポーツに関わってきた広瀬さんが、なぜに知事選出馬という突拍子もない暴挙に出たのか。それは「スポーツによって」故郷である静岡県を、さらには日本という国を変えられるのではないかという、確信めいた動機があったからだ。その野望は、ものの見事に打ち砕かれたわけだが、生前に広瀬さんが残したメッセージは、11年後の今でも十分に一聴の価値がある。
おりしも、東京と島根と長崎での補選が終わった。日本の選挙制度について考える時、スポーツの世界から切り込んでいった広瀬さんの「総括」は、令和の時代にこそ広く読まれるべきであろう。そこで今回は、1万5000字におよぶインタビュー記事を4日連続、無料公開でお届けする。(取材日:2013年7月12日@東京)
■「政治家になりたいわけではなくて政策をしたかった」
──選挙が終わって、早1カ月が過ぎました。落ち着きました?
広瀬 もう(投票日)翌日から落ち着いているよね。ただ、こっちが切り替わろうとすることに対して、抵抗勢力があった。たとえば「まだ若いから次がありますよ」とか、「次は国政ですね」とか。まあ、自分としては早く次に行きたいんだけど、支援者にご挨拶にいくとか、さすがにそこはマナーとか戦後処理もあったからね。そこで「もう(選挙には)出ません」ときちんと言うことに2週間くらいかかった。
──「是非、次こそは」みたいな話が結構あったんですか?
広瀬 あったね。何しろ34万人が俺の名前を書いたわけ。30万票取ると、どんな国政でも行ける。25万票、いや、20万票以上で比例復活する。それが34万あるんだから「国政に行ってください」って話になるんだろうね。僕が政治家になりたい(だろう)という前提で、そういう話をしてくるわけ。
──とはいえ広瀬さんの場合、別に政治家になりたくて今回、出馬したわけではないんですよね?
広瀬 政治家になりたいわけではなくて政策をしたかったわけです。民主党でも自民党でもどっちでもいいし、あるいは衆議院でも参議院どっちでもいいけど、国政に出ても政策なんてできるわけがない。何百分の1だよ、そんなの。僕がなんで知事選を受けたかと言うと、直接選挙だから。つまり「大統領」だから。
──「知事は大統領と同じ」という広瀬さんの指摘は、非常に新鮮であり納得でしたね。直接選挙だし、県の予算も静岡だと1兆2000億円なんですってね!
広瀬 そう、ちょっとした国家の大統領だから、そりゃあ、なりたいでしょ? いろんなことができるわけだから。一番のモチベーションが「スポーツマンシップ教育ができる」ということ。来年の4月から小学校5年と6年、中1から中3、そして県立高校の1年から3年まで全部ね。それができる。
──広瀬さんがライフワークにされているスポーツマンシップ教育とは、これからの時代に必要な人材教育、と理解しています。つまり、スポーツを通して自主的に判断することや相手をリスペクトする精神、あるいはリーダーシップといったものを学べるという。興味がある方はぜひ広瀬さんの書籍をご覧いただくとして(笑)、選挙の話を中心に質問を続けさせてください。今の参院選を広瀬さんはどうご覧になっていますか?
広瀬 うーん。(有権者は)誰も候補者の話を聞いていないよね。まずさ、今さら民主党に入れる人なんて、ほとんどいないわけじゃん。そうすると政党か、人か。たとえば桐島ローランド(註:第23回参議院議員通常選挙で東京都選挙区に「みんなの党」から立候補するも8位で落選)。どんな人で、どんな政策を打てるかなんて、誰もわからない。主張している政策を読んだとしても、彼にそれができるわけがないじゃん。現行のシステムの中で。
つまり国政って、人に入れるんじゃなくて党に入れる。それだけだよね。結局は政党選挙だから。今回の選挙は、自民が国政のねじれを解消できるかどうかでしょ。他の党は、共産党っぽいなあとか、社民党っぽいなあというキャラを出すために言っているだけ。誰もそんなこと実行できないと思っている。だから、自民党安倍政権に賛成かどうか。多少、気になっていることといえば、憲法(改正)問題。それを気にする人がいるかどうかくらいでしょ。