復刻版『フットボールの犬 欧羅巴1999-2009』 羊の島に生まれて フェロー諸島<2/3>
■天然芝のピッチが2面しかないフェロー諸島
フェロー諸島の首都トースハウンは、空港からバスでおよそ1時間。人口1万6000人の本当に小さな街である。小高い丘の頂上にあるホテルから、なだらかな坂をとぼとぼと下りていくと、やがて眼下にふたつのスタジアムが現れる。
ひとつは、地元のクラブ、HB(ハウナー・ボルトフェラグ)とB36(ボルトフェラギト36)が共有する「グンダダルー」。そしてもうひとつが、ナショナルスタジアムの「トースフェラー」。両スタジアムは、山を穿って整備された土地に隣接していた。周囲にはスタンドのないサブグラウンドが一面、そしてフェロー諸島の各種スポーツ協会の建物や屋内プール施設もあり、ちょっとしたスポーツコンプレックスになっている。
グンダダルーを訪れると「ACミラン」と「オランダ代表」が試合をしていた。もちろん、ユニフォームが似ているというだけの話で、試合内容は草サッカーレベルである。周囲にいる観客(野次馬、あるいは好事家と言うべきか)に尋ねると「3部リーグの試合」だという。熱狂からはおよそ程遠いフィールドには、選手のかけ声とパタパタという足音ばかりが響く。よく見ると、ピッチは人工芝だ。この島では3部リーグのみならず、トップリーグの試合さえも人工芝で行われていることを、この時に初めて知った。
実はフェロー諸島には、ここトースハウンと海峡を隔てたトフティルの2カ所しか、天然芝のグラウンドが存在しない。もともと火山島で、年間降雨量が多いため、この地は芝の育成には適さないのだそうだ。加えて、火山島特有の起伏に富んだ地形ゆえに、グラウンドを確保できる土地そのものが少ない。そのため、必然的に人工芝のグラウンドが重用され、トップリーグから下部リーグ、さらには地元の子供たちまでもが共有することになる。
確かにフットボーラーにとっては、極めて劣悪な環境なのかもしれない。それでも、フェロー諸島のナンバーワンスポーツは、間違いなくフットボールである。メキシコ湾からの暖流の影響で、冬でもほとんど積雪がないため、この地域ではウインタースポーツは行われない。それゆえ、子供たちが最初に出会い、夢中になるスポーツは、必然的にフットボールとなる。
地理的に英国に近かったこともあって、フェロー諸島のフットボールの歴史は思いのほか古い。国内最古のクラブのひとつ、HBの設立は1904年。来年で100周年を迎える。FIFA加 盟以前から、近隣のアイスランドやシェトランド諸島などと積極的に交流試合を行っており、国内リーグは4年からスタート。FSFが設立されたのは1977年のことであった。
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