宇都宮徹壱ウェブマガジン

現役プロサッカー選手が本を書いた理由 岩政大樹(東京ユナイテッドFC)インタビュー<1/2>

 今週は、このほど『PITCH LEVEL 例えば攻撃がうまくいかないとき改善する方法』でサッカー本大賞2018を受賞された、東京ユナイテッドFCの岩政大樹さんにご登場いただく。当WMで元日本代表をゲストにお迎えするのは、これが初めて。「サッカー本大賞」という共通項ゆえに、今回のインタビューが実現したと言っても過言ではないだろう(忘れている方もいるかもしれないが、私は昨年の受賞者である)。

 今回の岩政さんの受賞したことの意義については、こちらのコラムに書いたとおり。ここでは、佐山一郎審査委員長による《最大の魅力は、事件現場でもあるピッチレベルからサッカー用語に対する再定義がなされたこと。そしてそれは、マンネリ化したサッカーをめぐる言説空間を穿つものでありました。》という言葉を紹介するにとどめておく。いずれにせよ、サッカー本業界に一石を投じる話題作なので、まだ手にとっていない方はこの機会にぜひ一読されることをお勧めする。

 今回のインタビューは受賞作の内容よりも、むしろ「書き手としての岩政さんのバックグラウンドによりフォーカスしたものとなっている。常勝軍団・鹿島アントラーズで長くディフェンスリーダーを務め、Jリーグベストイレブンを3回受賞し、日本代表として2010年のワールドカップ・南アフリカ大会にも出場。現在は関東リーグの東京ユナイテッドに所属しながら、解説者や取材者としても活躍中。そんな輝かしいキャリアを持つ岩政さんは、なぜ「自分で本を書く」ということを思い立ったのか。そしてその結果、彼自身にもたらされたものは何だったのだろうか。

 今回は他ではあまり見られない、岩政さんの読書体験や執筆体験についても深掘りしつつ、今年の関東リーグについても選手兼コーチとしての立場からじっくりお話を伺った。周知のとおり、今季の関東リーグはJFLから2チームが降格してきて「地獄」と呼ばれるくらいの激戦区となっている。昨シーズンは3位だったものの、ほぼ全員がアマチュアだった東京ユナイテッドは、今季の厳しいリーグ戦をどのように戦おうとしているのか? こちらについても、いろいろと興味深いコメントを引き出すことができた。最後までお読みいただければ幸いである。(取材日:2018年4月4日@東京)

<目次>

*書き手としてのキャリアは25歳から

*読む本は「ジャンルは問わず」

*無条件に言葉を受け入れることへの抵抗感

*「J1で1年間プレーして引退する」プラン

*「地獄」の関東リーグを突破するために

*「他の人とは違うポジションを極めたい」

■書き手としてのキャリアは25歳から

──早速ですが、このサッカー本大賞を受賞されてから、ご自身の身の回りに変化はありましたでしょうか?

岩政 ちょっと身の引き締まる思いはしました。やっぱり、そういう(サッカー本大賞受賞者としての)肩書きというものが良くも悪くもついて回りますのでね。いろいろな方に知っていただく機会にはなりましたし、すごく光栄なことでしたけれど、これからまた自分の発信していくものに対して責任も生まれてくるなとは思いましたね。

──岩政さんは鹿島アントラーズ時代、2007年、08年、09年と3シーズン連続でベストイレブンを受賞されています。それとはまた違った受賞の喜びがあったのでは?

岩政 ベストイレブンも確かにすごい賞なのかもしれないですけれども、あんまりその時に自分の中で「受賞することで認められた」みたいな感覚はまったくなかった。この本は、本そのものというよりも、自分の今の生き方というか、選手をやりながらいろんなことにチャレンジしてきたことがひとつの形になったという意味で、すごく自信になったというか……。自信じゃないな(笑)、再確認。僕の場合、選手として上り詰めることよりも「人と違うことをしていくこと」をずっとやりたかったんだなっていう、再確認にはなりましたね。

──その「人と違うことをしていくこと」というのは、今回のインタビューのキーワードになりそうな気がしますが、そこはあらためてじっくりお聞きすることにしましょう。ところで、鹿島時代や岡山時代のチームメイトから祝福のメッセージはあったのでは?

岩政 何人かから、SNSやLINEからメッセージがありましたけど、なんか茶化されたりはした気がしますが(笑)。今回の本に関しては、鹿島のサポーターや岡山サポーターはもちろん、僕のことを敵だと思っていたであろう対戦相手のサポーターも読んでくれていたみたいです。そういう方からの反響もけっこうあって、僕のことを少し違う目で見てくださったり、あるいは「サッカーの見方が変わりました」といった声が届いたりしたのは嬉しかったですね。

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