宇都宮徹壱ウェブマガジン

途中出場のケイヒルには要注意! 在豪ライター植松久隆と展望する「10.11日豪戦」<1/2>

 本稿は10月6日に開催されるワールドカップ・アジア最終予選、日本対イラクの前に執筆している。いくらこの試合がホームゲームで、しかも相手が2敗しているとはいっても、日本はホームの初戦でUAE戦に敗れているし、イラクが強敵であることに変わりはない。よって、最終予選の第3戦もまったく予断を許さないわけだが、それでも続く10月11日のオーストラリアとのアウエー戦が今予選の大きな山場であることについては、誰も異論を挟むことはないだろう。

 日本が首尾よくイラクに勝利したとしても、オーストラリアに敗れて2敗目を喫してしまったら、現体制が「終了」となる可能性は十分にあり得ると覚悟している。それくらい「10.11日豪戦」は、日本にとって正念場となるゲームだ。ただし、昨年のアジアカップ以降のサッカールーズ(オーストラリア代表の愛称)がどうなっているのかについて、日本での情報はそれほど多いわけではない。そこで今回は、私が非常に頼りにしている在豪ライター、植松久隆さんをゲストにお招きすることにした。

 植松さんには徹マガ時代からたびたびご登場いただいているが、その情報の正確さと鮮度にはいつも舌を巻くばかり。今回は電話インタビューという形で、オーストラリア代表の最新事情を伺ったのだが、やはりアジアカップの頃とはかなり状況が異なっていた。しかも、植松さんがもたらす情報には、日本にとって有利なものがほとんどないことも明らかになり、何だかものすごく重たい気分になってしまった。

 とはいえ、これはアジア最終予選である。本来的には、楽な試合などひとつもないはずだ。そんなわけで、気休めになりそうな情報はほとんどないが、「10.11日豪戦」を迎えるにあたっての対戦相手の最新情報をWM会員の皆さんにお届けする。真の意味での「絶対に負けられない戦い」に向けて、まずはわれわれもライバルの現状をしっかりチェックしておくべきだろう。なお本稿の最後に、現地観戦を予定されている方に向けた情報を植松さんからいただいているので、こちらもご参考いただければ幸いである。(取材日:2016年9月20日)

植松久隆氏提供

■「日本、UAEに敗れる」はどう報じられたのか?

――今日はよろしくお願いします。オーストリアでの取材は、昨年1月のアジアカップ以来となるんですが、本題に入る前にまず「アジアカップ以降のオーストラリア」について伺いたいと思います。自国開催の大会で初優勝を果たしたことは、オーストラリアサッカー界にどんなものをもたらしたのでしょうか?

植松 やはり「アジアで結果を出した」ということに尽きると思います。国内のさまざまなスポーツ競技の中で、サッカーは先んじてアジアに入っていったわけですが、地政学的にはアジアに近かったにもかかわらず、オーストラリア国民の中には「なんでアジアなの?」と考える人が多かったんですよね。それが自国でアジアカップを開催し、そして優勝したことで、サッカーという競技を超えて「アジアの中のオーストラリア」というものがクローズアップされるきっかけになったと考えています。

――それは現地で取材していても強く感じましたね。「白豪主義」というのは20世紀の話で、今のオーストラリアは本当にアジアの多民族国家なんだな、という印象を強く受けました。さて、オーストラリアは今回「アジア王者」としてワールドカップ予選に臨んだわけですが、2次予選ではヨルダンにアウエーで0-2で敗れています。ヨルダンには、前回の最終予選で日本も敗れている相手ですが、国内での論調はどのようなものだったんでしょうか?

植松 あまり騒ぎにはなりませんでしたね。もともと2次予選の最大のライバルがヨルダンというのは誰もが認めるところでしたし、アウエーとなれば当然厳しい試合になるだろうと。それ以外の試合では、監督のアンジ(・ポスコグルー)がいろいろな選手を試しながら勝ち点を積み上げていって、終わってみれば首位通過でしたので「危なげなく」というのが一般的な受け止め方だったと思います。

――2016年に入ってからのオーストラリアは、7試合消化して5勝2敗ということですが、2敗はいずれも親善試合なんですね。

植松 そうです、イングランドとギリシャに負けていますね。ただ、こっちのサッカー好きはやっぱり、日本とのガチンコ勝負というものを一段上に置いているところがあるんです。ですので、今回の10月シリーズは9月に比べれば、もう少しフォーカスが当たるんじゃないかと期待しています。

――その最終予選ですが、日本、UAE、サウジアラビア、イラク、タイという組み合わせについては、そちらではどのように受け止められていたのでしょうか?

植松 「また日本と一緒か」というのが一番のリアクションでしたね。タイについては、若干戦力的に落ちるものの、中東勢3チームについては楽観できないというのが一般的な見方でした。特にUAEは、アジアカップで日本に競り勝って最終的に3位になるインパクトを残しましたからね。日本と一緒となったことも含めて、タフなグループに入ったというのが正直なところだと思います。

――オーストラリアから見て最大のライバルは日本で、ちょっとUAEも侮れないぞという感じですよね? ところがご存じのとおり、日本は初戦でUAEにホームで敗れるという大失態をおかしてしまいました。これはそちらでも大きく報じられたんでしょうか?

植松 驚きをもって報じられた、という感じですね。僕が読んだ記事で書かれていたのは「決定力不足」「ファイナルサードでねじ込めない」という文言です。同業者からも「上手いだけじゃなく、力強いFWが日本には必要だよね」とも言われました(苦笑)。

――日本がコケたことで、オーストラリアとしては「最終予選が楽になった」という雰囲気はあるのでしょうか?

植松 さすがにそれはないと思いますね。まだ序盤の序盤だし、日豪戦が裏表と残っているわけだし。UAEには勝利して、今のところ2勝していますが、最終予選は長丁場ですから、楽観している人はほとんどいないと思いますよ。

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