宇都宮徹壱ウェブマガジン

身体表現としてのアートとサッカー 日比野克彦(アーティスト、JFA理事)インタビュー

あらためて、6大会連続で五輪出場を決めた、手倉森誠監督率いるU-23日本代表に「おめでとう!」と申し上げたい。現地カタールに赴くことなく、しかも取材先のパレスチナではイラクとの準決勝を放映しているチャンネルを見つけることができなかった私は完全なる負け組である。が、そんなことが非常に仔細なことに思えるくらい、今回の快挙に私は心から喜んでいる。決勝の相手は韓国と決まったが、ここまできたならぜひともアジアナンバーワンとなって、リオ五輪に乗り込んでいってほしいところだ。

さて、今回ご登場いただく日比野克彦さんは、世界的なアーティストであり、JFAの理事であり、私にとっては藝大サッカー部の大先輩でもある。そんな日比野さんと、最近よくお会いするのがFC今治や日本代表といったサッカーの取材現場。前者についてはご自身がアドバリザリーボードのメンバーであり、後者については「アジア代表」という代表の活動に連動した文化交流プログラムを続けている。昨年11月のシンガポールとカンボジアとのアウエー2連戦でも、偶然にも往復の飛行機で日比野さん一行とご一緒させていただいた。

「アジア代表」というネーミングについて、日比野さんは「ワールドカップ出場が決まると『アジア代表である』ことを忘れてしまうんだよね。仕方がない部分もあるけど『アジア代表日本』として応援しようというのがスタート」と語っている。同様の思いはリオ五輪出場を決めたU-23代表や、来月に最終予選を迎えるなでしこについても抱いていることだろう。

今回の日比野さんへのインタビューは、フットボール批評最新号の表紙に、作品をご提供いただいたことが契機となり、版元のカンゼンさんとの共同企画として実現したものである。編集長の森哲也さんは「アートとサッカーの親和性」といったものをメインテーマと据えたかったようだが(もちろんその点についても語っていただいた)、今回は日比野さんのアジアに着目した理由について、まずは切り込んでみることにした。

なお上記の理由により、今号の配信後にフットボールチャンネルでもインタビュー記事の一部が公開される予定である。(取材日:2016年1月13日@東京)


(C)Tete_Utsunomiya

■なぜ「アジア代表」として日本代表を応援するのか?

――今日はよろしくお願いします。日比野さんは昨年11月の日本代表の遠征に合わせて、シンガポールとカンボジアでマッチフラッグのワークショップを開催されていたわけですが、まずはその話題から入りたいと思います。そもそもこの活動は、いつからスタートしたんでしょうか?

日比野 2006年に『アジア代表』というプログラムを立ち上げたの。それは日本代表がアジアの代表としてワールドカップに行くことを応援するのが目的なんだけど、拠点が福岡なんですよ。2005年に福岡で九州国立博物館ができるんですけど、これは京都、奈良、東京に次いで日本で4つ目の国立博物館なんですね。九州の人たちにとって百年来の夢で、大陸の文化は九州を通って入ってくるのに、なぜその九州に国立博物館がないのかとずっと思っていたわけです。それで太宰府の敷地に九博ができたんだけど、天満宮の宮司さんが昔からの知り合いで、「日比野くんアジアをテーマとした市民参加型のワークショップやってくんないか」って声がかかったんです。

――太宰府天満宮の宮司さんとお知り合いだったんですか?

(残り 8864文字/全文: 10277文字)

ユーザー登録と購読手続が完了するとお読みいただけます。

ウェブマガジンのご案内

日本サッカーの全てがここに。【新登場】タグマ!サッカーパック

会員の方は、ログインしてください。

1 2 3 4 5 6
« 次の記事
前の記事 »

ページ先頭へ