宇都宮徹壱ウェブマガジン

人口112万人の大分県に2つのJクラブは共存可能なのか 百年構想クラブ、ヴェルスパ大分の「次の一手」<1/2>

  今週は「大分県の赤いフットボールクラブ」ヴェルスパ大分を取り上げる。

  なぜ、このタイミングでヴェルスパなのか? きっかけとなったのは天皇杯だ。今年の天皇杯はベスト16まで進んでいるが、Jクラブ以外で唯一勝ち上がっているのがヴェルスパなのである。もっとも、今大会は大分県代表ではなく、アマチュアシードでの出場。ヴェルスパは昨シーズンのJFLで初優勝を果たしている。2012年に昇格して以来、9シーズンでようやく掴んだ快挙であった。

  そのヴェルスパ、今年2月にはJリーグ百年構想クラブが承認され、いよいよ本格的にJリーグ入りを目指すこととなった。周知のとおり同県には、大分トリニータという巨大すぎる存在がある。近年「県内第2のJクラブ」を目指すムーブメントが続いているが、興味深いことに県内第2の市、あるいは県庁所在地以外の市をホームタウンとする傾向が見られる。FC今治しかり、いわきFCしかり、福山シティFCしかり。ヴェルスパもまた、JFLの試合を開催している大分市ではなく、あえて別府市と由布市をホームタウンとしている。

  ヴェルスパの源流をたどると、クラブの現代表である清原栄二さんが2003年に立ち上げたHOYO FCに行き着く。翌年から県4部を振り出しにステップアップを続け、2010年に九州リーグに到達。HOYO AC ELAN大分として挑んだ2011年の地域決勝では、初めて決勝ラウンドに進出して3位となり、入れ替え戦なしでJFL昇格を果たしている。この大会は私も現地で取材しているが、それから10年後に彼らが本気で「大分県第2のJクラブを目指す」ことになるとは、まったく想像できなかった。

  果たしてヴェルスパは、Jリーグに到達するために、どのようなロードマップを描いているのだろうか? ホームタウンに別府市と由布市を選んだ理由は何か? そもそも人口112万人の大分県に、2つのJクラブは共存可能なのか? こうした疑問に答えていただくべく、清原代表のご子息で株式会社ヴェルスパ代表取締役社長の清原裕輔さん、そして同取締役でGMの生口明宏さんにご登場いただく。今回のインタビューは、トリニータのファンの皆さんにも、ぜひご覧いただきたい。(2021年8月2日、オンラインで取材)

 TOP写真提供:ヴェルスパ大分

 <1/2>目次

*百年構想クラブとしてジュビロ磐田と天皇杯で対戦

*地元に戻る契機となった「カメルーン代表との試合」

*昨年のJFL優勝を陰で支えた「GM専任」という決断

■百年構想クラブとして天皇杯でジュビロ磐田と対戦

 ──清原社長、生口GM、今日はよろしくお願いします。昨年はJFL優勝、そして今年はJリーグ百年構想クラブにも認定されました。地元・大分での注目度も、それなりに上がっているんでしょうか?

生口 社長、どうですかね? 注目度は上がっていますか(苦笑)? 

清原 われわれは上位にいても、常に次の試合に向けて淡々と準備をするだけですからね。去年の優勝の際、スポンサーさんから祝福の言葉をいただいた時には「そうだ、優勝したんだ」という実感が湧きましたけれど、特に何かが変わったという感じはないですね。 

生口 去年はコロナ禍ということもあって、なかなかスポーツに目を向ける余裕もない中、僕らも無観客を含めて制限のかかった試合が続いていましたからね。なかなかアピールする術もなかったですし、優勝したからといってはしゃぎすぎるのも良くないだろうと。ですので、社長がおっしゃるように、目の前の1試合1試合を大事に戦っていたというのが、昨シーズンの印象ですね。

──昨年に大分市陸で行われた、Honda FCとの天皇杯を取材させていただきました。門番対新チャンピオンという、JFLファンにとってはワクワクするカードが実現しました。あの試合はお客さんも入っていましたし、それなりに反響もあったのでは?

生口 天皇杯については、スポンサーさんもそうですけれど、行政の方々からの反応がありましたね。大分市内の会場で、全国的に有名なHondaさんと天皇杯で対戦できるというのは、なかなかない機会でした。それもあって自治体の方からも「大分を背負って戦ってくれましたね」みたいなお声がけをいただきましたね。

──そして今年の天皇杯でも、アマチュアシードとして出場してベスト16に進出。しかもJクラブ以外では唯一勝ち残っています。昨年以上に注目度が高いと思うのですが。

生口 大分からはトリニータさんとウチが勝ち残っているんですけど、地元紙では同じくらいの扱いだったのがうれしかったですね。「青い大分と赤い大分」みたいな感じで(笑)。われわれにとっては画期的なことでした。

──トリニータとの共存、あるいは差別化という話は今回のインタビューの肝となる部分ですので、のちほどじっくり伺うとして、8月18日にはホームにジュビロ磐田を迎えることになります。ジャイアント・キリングを起こせそうですか?

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