【無料公開】Jクラブ社長が個人メディアを始める理由 小島耕(水戸ホーリーホック代表取締役社長)<1/3>
今週はタグマ!にて「Jリーグクラブ社長のリアル経営日記」を立ち上げた、水戸ホーリーホック代表取締役社長の小島耕さんにご登場いただく。小島さんには、当WMでたびたびインタビューしているが、今回のテーマは現役Jクラブ社長による「発信」にフォーカスした。
2020年7月に46歳で水戸の社長となった小島さんは、エルゴラッソの立ち上げに関わるなど、もともとメディア業界の出身。それゆえ、クラブの取締役となった時から、個人アカウントからの発信には積極的であった。Xで自ら発信するJクラブ社長は、まだまだ少数派。そんな中、小島さんはさらに一歩踏み出し、月額880円の個人メディアを立ち上げたのである。
言うまでもなく、クラブ社長の仕事は激務そのもの。個人メディアの運用もまた、片手間でできるものではない。なぜ小島さんは、その両方を担うことを決断したのだろうか。話を聞いてみて、水戸ホーリーホックというクラブ単体だけでない、より普遍的な課題が背景にあることが明らかになった。水戸以外のファン・サポーターにも刺さる内容となっている。
なお今回は実験的な試みとして、3分割したインタビューを一挙掲載。1本目は無料公開とした。一気に読むもよし、週末にかけてじっくり読むもよし。それぞれのペースで、お楽しみいただきたい。また、こうした掲載方法についての感想なども、ポストしていただければ幸いである。(取材日:2023年12月20日@東京)
■なぜ小島社長は自らSNSで発信し続けているのか?
──今日はよろしくお願いします。小島さんがスタートさせた「Jリーグクラブ社長のリアル経営日記」、略して「リア経日記」。その目指すところについて「スポーツ界の職業価値を高めたい」あるいは「スポーツの仕事を未来に残る、そして選ばれる仕事にしたい」と書かれていました。
一方でクラブ社長ですから、水戸ホーリーホックを経営面だけでなく、フットボール面も強くしていきたい。しかし優勝や昇格がゴールなのではなく、その向こう側には「日本サッカーが強くなるために」という思いもあったのではないかと思います。いかがでしょうか?
小島 水戸ホーリーホックを強くする、手法そのものについては理解しているつもりです。クラブがしっかりお金を稼いで選手を強化し、さらにフロントやアカデミーにも投資していく。まだまだ足りていないですけど、やるべきことは自分の中で明確になっています。この仕事に飛び込んでみて、メディアの側にいたらわからなかったことが、いろいろと見えてきました。まずはそういったについて、このメディアを通して発信していけたらと思います。
もうひとつの目標は、クラブにおける選手やフロントや育成の強化は、回り回って「日本サッカー界に資する」ということを伝えていきたい。とりわけフロントの強化というのは、一般のサッカーファンには見えにくい部分ですが、ここもすごく大事だと思っています。じゃあ、クラブのフロントとか経営者というのは、普段どんな仕事をしているのか? そのあたりのことを、この個人メディアで知っていただければという思いもあります。
──小島さんはJクラブ社長の中でも、XをはじめとするSNSを比較的活用しているじゃないですか。でも、おそらく多くの社長は「クラブの公式のリリースがあるからいいじゃん」って考えている人も多いと思うんです。小島さんは、Jクラブ社長は独自アカウントから、自分の言葉で発信していくべきだと考えていますか?
小島 そう考えています。というのも、クラブの発信だけでは、必ずしもファン・サポーターには届かないと思うからです。クラブのリリースに加えて、社長による発信でもきちんと埋めるべき、というのが僕の考え。逆に公式リリースだけで、すべてを済ませようとするのは、ちょっと優しくないですよね。その行間を自分の言葉で埋めていくのも、社長の仕事だと思っています。
──そこでひと手間かけられる社長と、そうでない社長がいます。小島さんが、ひと手間かけられる理由は何なのでしょうか?
小島 それはやっぱり、われわれの仕事を知ってもらいたいからですよ。そこを目指す人が増えて、この仕事の職業的な価値を上げていくための、最初の入り口となるのが自分たちの発信だと思っています。このクラブの社長は、どんなパーソナリティを持っていて、何を考えながら仕事をしているのか。そういうことを、もっと知ってもらえるきっかけにしたいんですよ。
──たまに「クラブ社長の仕事は、ピッチ上での結果ですべて証明されている」みたいな考えの人って、いるじゃないですか。でも小島さんは、そうではないと。
小島 そういう考えを否定するつもりはないですが、今の時代には合わなくなってきているように感じています。特にウチのような地方の市民クラブだと、やってきてことすべてをピッチ上で表現するのって、非常に難しいし結果も出しにくい。「察してほしい」と思っても、誰もが好意的に受け止めてくれるわけでもない(苦笑)。であるならば、もっとクラブ社長が当事者目線で発信して、見せられるものはどんどん見せていくほうがいいと思っています。