宇都宮徹壱ウェブマガジン

ひっそりと月刊化するサッカーダイジェストへの提言 「紙にこだわる」のであればぜひ挑戦してほしいこと

 本題に入る前に、まずは日曜日に取材したJ220節、大宮アルディージャvs藤枝MYFCについて言及することにしたい。

 いつもであれば、試合の模様をフォトギャラリー形式でレポートするのだが、この日は5ゴール中4ゴールがカメラを構えていた反対側で決まってしまい、同じような写真を並べるのに抵抗があった。時間も経っているので、個人的に印象的だったことを備忘録的に記す。

 試合はアウェイの藤枝が、31分までに3ゴールを挙げるという波乱の展開。しかし、現在最下位の大宮は、ここから驚異的な粘りを見せる。41分の泉澤仁が1点を返すと、後半から出場の柴山昌也が47分に追加点を挙げて1点差と迫る。その後も怒涛の攻撃を見せる大宮に対し、藤枝は最後まで集中が途切れることなく逃げ切りに成功。終了のホイッスルが鳴って、バタバタと倒れたのは藤枝の選手たちだった。

 敗れた大宮は、同節に敗れていたいわきFCを追い抜くことができず、引き続き最下位のまま。選手たちは奮起したと思う一方、やはり序盤の3失点がすべてだったと言わざるを得ない。選手たちがゴール裏に挨拶に向かうと、容赦ないブーイングが浴びせられた(もちろん、サポーター全員ではない)。アカデミー出身の3年目、20歳の柴山にも心無いヤジが飛ぶ。その時、男性サポーターの声がはっきりと聞こえた。

「シバ! ヤジなんか気にするな!」

 すると柴山はくるりと振り返り、声に応えるように右手の握りこぶしを作り、一瞬だけ笑顔を見せた。ただ、それだけのシーン。それでも殺伐とした雰囲気の中、きらりと光る「コール&レスポンス」を目にして、雨のNACK5スタジアムを取材した甲斐があったと感じた次第だ。

 ところでこの試合では、キックオフ前のアップ時に、藤枝の選手が放ったシュートが、スタンドにいた地元ファンに直撃するというアクシデントがあった。翌日、当事者である渡邉りょうのツイートで、そのことを知った。

 相手を思いやる気持ちもさることながら、ツイートの反応にひとつひとつレスポンスしている、その律儀な姿勢に深い感銘を受けた。試合中も、当人は気になっていたのかもしれない。それでも31分にはしっかり3点目を決めているのは、さすがプロフェッショナルだ。

 ちなみに渡邉は、26歳で初めてのチャレンジとなるJ211ゴールを挙げており、現在ランキング1位。平仮名の独特な名前から、かねてより気になる存在だったが、今回のSNSでのやりとりを見て、人間性の素晴らしさにも惹かれた。これからも注目していきたい。

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