宇都宮徹壱ウェブマガジン

新人ライターのデビュー作はなぜ潰えたのか? 焼き尽くされた信頼と「文化祭的」経営の限界

 カタールで開催されるワールドカップに臨む、日本代表メンバー26人の発表から1日が経過した。サッカーメディアの端くれとして、本来ならばその話題に乗っかるべきなのだろう。けれども今週は、先週からずっと心に引っかかっている『「推し」に押されてリトアニア』出版中止問題について、きちんと言及することにしたい。

 事件の経緯については、版元となるはずだった西葛西出版のこちらのリリースでも確認できる。が、問題となったTwitterでのスペースを聴いていない人には、いくつものクエスチョンマークが浮かぶばかりであろう。もう少し丁寧かつ簡潔に、事態の推移をまとめておく。

・10月24日夜、五十嵐メイ氏の書籍デビュー作となる『「推し」に押されてリトアニア』プロモーションのためのスペースが行われた。

・スペースの内容は、著者の五十嵐氏と西葛西出版社長の中村慎太郎氏のトークで進行。

・中村氏は、取材先である藤枝市のスポーツバーから参加(飲酒していたと思われる)。

・トークの内容が、五十嵐氏に対する中村氏の公開パワハラ・モラハラ状態となり、タイムラインには戸惑いや非難の声が書き込まれる。

・その後、本格炎上。スペース終了後、業界内のさまざまなステークホルダーに飛び火する。

・25日、書籍に関わることになっていた関係者から、中村氏にSNS上で謝罪と説明を要求されるも、当人は取材(磐田市まで徒歩で踏破する企画)を優先。その模様を連続ツイートする。

・その間、スペースのアーカイブがしばらく残っていたため、暴言の数々がさらに流布される。

・五十嵐氏、西葛西出版からの出版を断念。クラウドファンディングによる制作費集めも中止。

・26日、西葛西出版が公式HPに謝罪文を掲載。

 本件の登場人物は、いずれも私のごく近しい仕事仲間である。それが「被害者」と「加害者」になってしまったことが、何より悲しく残念でならない。一方で私は、西葛西出版が刊行した『すたすたぐるぐる』の埼玉編と信州編に寄稿しているし、OWL magazineにも定期的に原稿を出してきた。「旅とサッカー」という、私にとって極めて親和性の高いテーマについて、唯一といってよいくらい積極的だったのが西葛西出版であった。

 本件に関しての当事者ではないけれど、それでも私は至近距離でのステークホルダーであるし、社長の中村氏についても当WMにもたびたび登場していただいている。加えて言えば、前途ある新人ライターのデビュー作が潰えたことについても、ひとりのブックライターとして決して看過はできない。そうした諸事情を鑑み、このタイミングできちんと言及すべきであると考えた次第だ。

 本件に関しては、不確かで先入観に基づいた情報も出回っており、一筋縄では収拾がつかない状況となっている。そこで問題点を3つに集約することにした。

1)版元と著者との関係性に不健全さが見て取れたこと

2)中村氏個人の問題が、法人の問題にすり替えられたこと

3)西葛西出版の経営が悪い意味で「文化祭的」であったこと

 以下、それぞれの問題点について言及する。いつもより長めのコラムとなってしまうが、最後までお読みいただければ幸いである。

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