宇都宮徹壱ウェブマガジン

松葉杖生活と久々の地方取材と新著のこと GWを迎えるにあたっての雑談めいたコラム

 久しぶりに新幹線で移動しながら本稿を執筆している。今日から1週間かけて、大阪、岡山、そして広島を巡る。先週まで松葉杖生活を余儀なくされ(後述)、ずっと自宅に籠もって書籍の執筆を続けていたので、日常から解放される爽快感は格別だ。そんなわけで今回は、いつものテイストからあえて外れて、いささか雑談めいたコラムとなることをお許しいただきたい。

 まずは短期間の松葉杖生活について。

 日記にも書いたとおり、先週水曜日の夜、街路樹の柵に足を引っ掛けてしまい、したたかに転倒してしまった。酒は入っていたが酩酊してはいなかった。ただし「終電に間に合わない!」という切迫感から、慌てていたのは間違いない。結局、タクシーで帰宅したのだが、翌朝になって左膝が腫れてしまい、歩くことさえままならない状況になってしまった。

 まずは医者に診てもらわねばと思ったものの、まったく身動きが取れない状態。幸い、その日のうちに松葉杖をレンタルすることはできたが、慣れない上にサイズが小さかったこともあり、最寄り駅までの7分の道のりに20分を要してしまった。しかも、脇と掌がすぐに痛くなってしまう。片足分の重量を両手で支えるのが、これほど難儀するとは思わなかった。

 松葉杖と悪戦苦闘しながら、考えたことが2つ。いずれもサッカーに関することだ。

 まず、これまでの自分の取材について。これまで(元)選手に取材した際、怪我に関する質問をすることも多かった。そのたびに「大変でしたね」とか「復帰できてよかったですね」とか、今にして思えば受け止め方に軽さがあったように反省している。自分自身、骨折や靭帯損傷の経験がなかったので、ある意味仕方のない話ではあった。それでも今回の経験を経て、今後はより相手に寄り添ったインタビューができそうな気がする。

 次に、アンプティサッカーについて。これは下肢や上肢の切断障害を持った選手がプレーするサッカーで、プレーヤーは松葉杖をつきながらプレーする。私も一度だけ取材したことがあり、選手がダイビングヘッドやボレーを決めたときは「おお、すごい!」と感激していた。ところが今回、松葉杖をついて移動すること自体が大変なことを知り、今さらながらに選手たちへのリスペクトの念を深めることとなった。

 松葉杖で外出したのは、実は2日間しかない。それでも、電車やバスでは席を譲ってもらったり、飲食店ではセルフサービスのお冷を運んでくれたり、見知らぬ人からの親切に何度も触れる機会があった。それだけ哀れな姿に見えたのだろうが、これもまた得難い経験である。膝に溜まった血を抜かれた時は、年甲斐もなく涙目になってしまったが、それも含めて「人生に無駄な経験なし」とあらためて思った次第である。

(残り 1384文字/全文: 2505文字)

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