代表やレジェンドでない「選手もの」の可能性 現在かかりっきりの「松本光平」企画について
今週は、現在かかりっきりになっている仕事について、語ることにしたい。日記にたびたび登場する「松本光平企画」についてである。
今年の前半は『蹴日本紀行』の出版に注力していた。撮影取材が終わったのが、今年の5月16日。校了したのが7月12日で、発売が31日。その後はプロモーションとECサイトでの展開など、著者としてできることは何でもやった。8月20日には重版が決定。ヨコハマ・フットボール映画祭でのリアル徹壱堂での販売も終了し、ようやく一区切りがついたところである。
『蹴日本紀行』は、これまでの国内取材の集大成という位置付けだったので、執筆と写真選びに傾けるエネルギーは尋常でなかった。すべての原稿が手を離れて、仕上がった書籍が手元に届いた時、いつも以上の達成感と同時に、これまで感じたことのない虚脱感にも見舞われたのも無理はない。しばらくは旅に出ることもせず、さりとて次のプロジェクトにもなかなか着手できずにいた。
幸い次のプロジェクトは、すでに今年の2月の時点でスタートしていた。松本光平というプロフットボーラーについてのノンフィクションである(最初のインタビュー記事はこちら、その後のリハビリの模様についてはこちら)。これまで12冊の単著を発表してきた私だが、いわゆる「選手もの」というのは初めて。しかも今回は著者ではなく「構成」というのが、私に与えられた役割である。
これがコロナ禍以前であれば、このオファーに「ガラではない」などとして難色を示していたかもしれない。しかし今、私はこの企画に目の色を変えて取り組んでいる。これほど夢中になれるとは、自分でも驚きだった。
2020年以降、私は『フットボール風土記』と『蹴日本紀行』という「土地とフットボール」にまつわる2冊の著書を上梓することができた。著書をお読みいただいた方は理解していただけると思うが、実は両作品ともコロナ禍の影響が色濃く反映されている。これに対して今回の企画では、松本光平というフットボーラーを通して「コロナ禍でもまったく揺らぐことのない人生」というもの提示したいと考えた。そこが、あまたある「選手もの」との一番の違いだと、構成担当の私は捉えている。
先週掲載したこちらの書評にも書いたことだが、いわゆる「選手もの」の書籍というものが、ここに来てトレンドが変わりつつあるように感じている。誰もが知っている日本代表の選手や、欧州リーグで目覚ましい活躍をしている選手、そしてJリーグで「レジェンド」としてリスペクトされている選手。そうしたフットボーラーたちの書籍は、今後、主流ではなくなっていくのではないか──。
以下、サッカーをテーマに12冊の著書を出している、いちブックライターとしての意見として、お読みいただきたい。
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