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【無料公開】ガンバでもセレッソでもない「第3のJクラブ」? FC大阪の立ち位置を30代社長が語る<1/2>

 ちょっと先走った話になるが、2023年は「東大阪」が世の注目を浴びそうな気がしている。まず、今度のNHKの朝ドラ『舞い上がれ!』の舞台となっていること(参照)。そしてもうひとつは、来季のJリーグに大阪で「第3のJクラブ」が加わる可能性が高いこと。それが東大阪市をホームタウンとする、FC大阪だ。

 FC大阪は1996年創設。大阪府5部から一段ずつ駆け上がり、2015年にJFLに到達して今年で8シーズン目となる。2018年には運営会社を設立し、東大阪市が正式にホームタウンとなった。J3ライセンスが交付された2020年には、昇格まであと一歩まで迫りながら、最終節で涙をのんでいる。9月28日現在、Honda FCと同勝ち点の2位。まだ8試合を残しているものの、今度こそ大願を果たせそうだ。

 もしFC大阪が昇格すれば、関西からのJクラブは1997年のヴィッセル神戸以来、実に26年ぶり。ガンバ大阪、セレッソ大阪に次いで、府内のJクラブは3つ目となる。大きく先行する2つのJクラブに対して、FC大阪はどのような立ち位置を考えているのか? その大きなヒントとなるのが、ホームタウンの東大阪市。同市には「ラグビーの聖地」花園があり、FC大阪は「ラグビーとサッカーの共存」を打ち出している。

 そんなビジョンを語ってくれたのは、前クラブ社長の疋田晴巳さん(参照)。残念ながら疋田さんは、昨年2月10日に60歳で逝去している。後任社長に就任したのは、当時34歳の近藤祐輔さん。今回のインタビュー記事は、大阪で「第3のJクラブ」となるための立ち位置と方向性に加えて、元Jリーガーでもあるご自身のキャリアも織り交ぜながらお届けすることにしたい。(取材日:2022年9月7日@東大阪)

<1/2>目次

*なぜ40人体制で今季のJFLに挑んだのか?

*急逝した疋田晴巳前社長から引き継いだもの

*バンディの守護神だった2007年地域決勝

なぜ40人体制で今季のJFLに挑んだのか?

──今日はよろしくお願いします。今季のJFLも残り11節。試合数にばらつきはあるものの、現時点ではHonda FCと奈良クラブを押さえてFC大阪は首位に立っています。好調の要因をどう見ていますでしょうか?

近藤 これまで、われわれがなかなか昇格できなかった理由として「夏場に弱い」とか「2順目に研究されてしまう」というのがありました。今季に関しては、堅守速攻から奪取速攻に変更して、より攻撃的なサッカーをするという戦術を徹底させて、そこの部分をフロントと現場が共通認識を持てたことが大きかったように思います。

 順位表を見ていただければわかるんですが、今季はリーグで最も得点を決めているのはウチなんですね。まあ、失点も多いんですけど(苦笑)。その代わり、昨シーズンまではほとんどなかった逆転勝利が、今季はけっこう多いですよ。その分、観ている人はハラハラドキドキするんですけれど、しっかり勝てるチームになってきたという実感はありますね。

──去年に比べて、見たところ大型補強をしている印象はないのですが。

近藤 そうですね。補強という観点でいくと、われわれは今季(所属選手)40人体制でスタートしました。これはJFL全クラブの中で最も多い人数です。もちろん、そのうち試合に出られるのは18~22人くらいのグループですよね。それでも今季は、23人目以降の選手たちでも、十分にJFLで戦えるだけの戦力が控えています。ですから、誰かが怪我をしたとしても、遜色ない選手に出番が回ってくる。そうした全体の総合力のアップもまた、今季の好調ぶりを下支えしていると思います。

──手元に今季のJFLガイドブックがあるのですが、30人以上の選手を確保しているのがFC神楽しまねとFCマルヤス岡崎とクリアソン新宿。FC大阪はそれよりさらに多い40人体制です。当然、人件費もかかってくるわけですが、これほど多くの選手を確保しているのはなぜですか?

近藤 怪我人対策というのもあるんですけれど、それ以上に重視したのが「コロナ対策」です。トップチームに感染者や濃厚接触者が出て、メンバーが揃わないケースというのは、今季のJリーグでもけっこうあるじゃないですか。

──そうですね。今年のルヴァンカップでも、3人しかベンチがいなくて、そのうち2人がGKという試合もありました。

近藤 J1クラブでさえ、そういうことがありますからね。われわれは今季、何があってもJ3に昇格するというところで動いていますので、そういった意味での40人体制でもあります。もちろん、それだけ試合に出られない選手も出てくるわけで、そのことをネガティブに捉える人もいるかもしれません。それでも、23人目以降も遜色ないメンバーが揃っていることは、試合に出ている選手たちにとっても良い意味でのプレッシャーを感じてくれていると思っています。

──それはわかりますが、ずっと試合に出られない選手についてはいかがでしょう?

近藤 出場するチャンスがいつあるかわからないですし、来季の契約がどうなるかもわからないですから、そういった意味での不安はもちろんあると思います。それでもJFLからJ3に昇格する経験というものは、たとえ試合に出られなかったとしても、その後の彼らのキャリアに良い影響を与えると信じています。それは理想論で言っているのではなく、僕自身の現役時代の経験に基づいている考えです。

──近藤さんご自身、FC大阪での現役時代は府1部、関西2部、そして1部昇格を経験していますからね。

近藤 僕の経験に比べたら、JFLからJ3に昇格する経験というものは、もっと大きなものに感じられると思うんです。そういう経験ができた選手は、たとえ試合に出られなかったとしてもメンタルが強くなりますよ。ですから今季のわれわれの目標は、何としてでもJ3に昇格すること。それはクラブだけでなく、個々の選手たちにとっても必ずプラスになると確信しています。

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