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なぜ34歳の女性会計士はJリーグ理事就任を決断したのか? 米田惠美(公益社団法人日本プロサッカーリーグ理事)<1/2>

 2019年のWM最初のインタビュー。今週は、昨年3月にJリーグの常勤理事に就任した、米田惠美さんにご登場いただく。村井満チェアマンが3期目を迎えるにあたり、原博実副理事長の再任、そして木村正明専務理事と米田理事の新任内定が発表されたのは、昨年2月27日のこと。原さんと木村さんについては皆さんよくご存じであろうが、最も謎めいていたのが米田さんである。

 何しろ就任当時の年齢は34歳。しかもサッカーとは直接関係のない公認会計士の出身である。その経歴もまたユニークで、20歳で公認会計士の資格を取得し、大学に通いながら新日本有限責任監査法人(当時)で監査業務の仕事をしていたという。彼女を抜擢した理由に関しての、村井チェアマンのコメントを引用する(参照)

 年齢は非常に若いのですが、Jリーグのグループの18名の役員に向けたセッションを毎週2時間、20回以上を開催し、企画から実行、ファシリテーションまで一手に米田氏が引き受けてくれています。実際に一緒に仕事をしてみて、能力や見識を評価しました。性別や年齢には関係なく、実力本位で起用しました。

 人事のプロフェッショナルである村井チェアマンが、「性別や年齢には関係なく、実力本位で起用」というからには、相当優秀な人であることは間違いない。ところが米田理事に関するインタビュー記事というものは、専門誌をはじめほとんど見かけることはなく、これまでずっと「謎の人」状態であった。こういう時こそ、当WMの出番である。

 かくして昨年11月、ようやく米田理事へのインタビューが実現。お話を伺ってみると、25周年を迎えたJリーグが水面下で進めている組織改革、そして社会連携をはじめとする新たな試みについて、実は彼女が非常に重要な役割を担っていることが理解できた。Jリーグの今後の方向性に関心のある方には、必読の内容となっている。

 なお今回のインタビューは、昨年末に発表したYAHOO!個人ニュースの完全版となっている。最後までお読みいただければ幸いである。(取材日:2018年11月28日@東京)

<目次>

Jリーグは「もっとできる組織」

*会計は「物事を表現するツール」

*企業の常識とスポーツ組織の常識

*Jリーグ理事を引き受けた理由

*なぜ「Jリーグをつかおう!」だったのか?

*社会連携と競技力の向上は離れていない

Jリーグは「もっとできる組織」

──Jリーグ理事に就任したシーズンが間もなく終わります。今年は改革に明け暮れた1年だったと思うのですが、あっという間でしたか?

米田 本当にあっという間でした。精神的に辛いこともありましたが、これまで生きてきて最も充実した1年だったとも思います。改革については、外からご覧になって大きく変わった印象はないかと思うのですが、着実に変わってきているという実感はありますね。

──具体的な改革の内容を教えていただけますか?

米田 いわゆる経営的なガバナンスですよね。たとえばJリーグの予算編成なんかでも、まず「こういう方向に行きたいよね」というビジョンを設定して、そこに向かう戦略やストーリーを整理しながら「こういう形でみんなの業務が目標につながっているんだよ」ということを共有する。そのための「マップ(地図)を作る」作業をずっとやってきたように思います。みんなすごく一生懸命働いているんですよ。でも、それが何につながっているかを明確に意識できていない。それと、リーグとクラブの間にも情報格差があるので、一緒にマップを作ることで、そうしたギャップをある程度は埋められたかなと思っています。

──やっぱり「サッカー界から来た人間ではない」というところでのご苦労と言いますか(笑)、いろいろあったんじゃないでしょうか?

米田 そうですね。「フットボールはそういうんじゃないから」とか、一般企業では当たり前のガバナンスについても「もっと感覚的なものだからさ」とか(苦笑)。私も苦労しましたが、納得されていない方々がいらっしゃるのも理解しています。それでも結果を出せれば、お互いに「やってよかった」と思えるわけで、そこまでたどり着くまでの我慢なのかなって思っています。

──その「結果」についてですが、具体的にはどのあたりを想定されていますか?

米田 大きなところでいくと、集客や視聴者数といった、いわゆる事業系のところですね。そこが伸びると、数字としてすごくわかりやすいですから。フットボールの部分については、競技水準をどう測るかという問題がありますし、育成となるとある程度の年数を待たないと結果は出てこないので、そこは息の長い作業にはなると思っています。あとは新しく打ち出している「社会連携」。そこでいい事例が出てくれば、サッカーファンではない一般の人たちにも届けられるものが出てくると考えています。

──社会連携に関しては、のちほどじっくり伺いたいと思います。ところで、あるインタビューで米田さんはJリーグを「もっとできる組織」とおっしゃっていましたね(笑)。どのあたりでそう感じていますか?

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