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【無料公開】「報道されない」開催国ブラジルの現在(再) 大野美夏(サッカージャーナリスト)インタビュー<1/2>

ブラジルが最も苦手な対戦相手とは?

――いよいよ、本大会に向けてファイナルドローが間もなく(12月6日)行われます。日本がどのグループに組み込まれるか気になるところですが、ホスト国のブラジルにとって「こことは一緒になりたくない」というチームがあるんでしょうか?

大野 今回、シードから外れたイタリアは嫌ですね。逆にウルグアイがシードに入ったのは、ブラジルにとってはラッキーですよ。やっぱり1950年のワールドカップのトラウマがありますから。

――いわゆる「マラカナンの悲劇」ですね? でも最近は、ブラジルはずっとウルグアイに負けていません。コンフェデでも準決勝で勝利しているし

大野 いやあ、ウルグアイがどんな状況だろうと関係なく、ブラジル人にしてみたら「ウルグアイ」って聞いただけで嫌な顔しますよ(笑)。コンフェデの準決勝で、フォルランがPKを蹴るシーンとか、すごく意地悪そうな顔していたじゃないですか。フォルランって、ブラジルのインテルナシオナルでプレーしていた親しみのある選手ですけど、それでもあの瞬間は見ていてすごく癪に触りましたよね。(参照)

――結果的にジュリオ・セザールが阻止しましたけどね。あの試合、私はフォルタレーザのPV(パブリックビューイング)で見ていたんですが、ブラジルの勝利に涙している人がけっこういて驚きました。

大野 けっこう感情入ったと思う。それはやっぱり、相手がウルグアイだったから。ウルグアイって、どこか高いところからブラジルを見ている一面があるわけですよ。

――まあ、ブラジルよりも以前にワールドカップで2回優勝していますからね。いずれにせよ、ウルグアイやアルゼンチンといった南米のライバルたちと同組にならないというのは、ブラジルにとって有り難いことだと思います。北中米ではどうですか?

大野 メキシコはちょっと嫌ですよね。ユースの大会とか、あと去年のロンドン五輪でも負けているでしょ。これは呂比須ワグナーが言っていたんだけど、メキシコ人は自国開催の70年ワールドカップのブラジルを見てから「ブラジルに追いつけ、追い越せ」って感じになったそうです。

――ペレが最も輝いていたブラジルですよね。もちろん私は後付けの知識ですが、あれをリアルタイムで見たメキシコ人にしてみたら、相当なインパクトだったと思いますよ。いずれにせよ、ノーシードでブラジルが嫌な相手というのはイタリアとメキシコということですよね(編集部註:抽選の結果、メキシコはブラジルと同組に)。それ以外は大丈夫という感じなんでしょうか? たとえば98年の決勝で敗れているフランスは?

大野 フランスは、コンフェデの直前に親善試合をやって、23年ぶりに勝利しましたからね。なので(本大会で対戦しても)いけそうかなって感じかな(笑)。あと、勝負強いドイツとか、前回優勝のスペインとかも今回はシードされているし、アフリカ勢もそんなに苦手意識はないので。

――当然、アジアもそうでしょうね。たとえばもし、コンフェデみたいに日本と同組になった場合って、どうでしょうかね?

大野 去年(12年)に、日本とブラジルがポーランドで対戦しましたよね。実はあの時のブラジルって、弱小国には余裕で勝てるけれど、強豪国にはなかなか勝てなかったので、中間に位置する日本にどんな試合ができるか注目されていたんですよね。

――え、そうだったんですか? つまり、日本相手に実はプレッシャーがあったと。

大野 不甲斐ない戦いをしたらメディアも国民も容赦ない批判をしたでしょう。でも4-0であっさり勝って、「なんだ、オレたちってやっぱり強いじゃん。日本くらいなら余裕」っていう(笑)。あの時、マノ・メネゼス監督は日本戦のおかげで一息つくことができました。自信回復に日本って本当にいい国、ありがたい(笑)。

<2/2>につづく(3月30日19時更新予定)

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