宇都宮徹壱ウェブマガジン

マスコットに折り鶴を選んだ切なる理由 キヅール立体化計画に込められた想いとは?<1/2>

 マスコットファンの皆さん、お待たせしました!

 今週はマスコット界に激震を起こした、グルージャ盛岡のキヅールにフォーカスする。ご登場いただくのは株式会社いわてアスリートクラブ常務取締役の宮野聡さん(下の写真右)、そして強化・プロモーション担当の松田賢太さん。おふたりには、11月3日に東京・渋谷で開催されたキヅール関東出張イベントの際、公開インタビューという形でお話を伺った。

 この出張イベントを取材して、まず何に驚いたかというと、参加していたサポーターの多様性である。盛岡はJ3所属だが、J1やJ2クラブのレプリカを着たサポーターが大集合。キヅールが登場すると一斉にスマホによる撮影会が始まり、少しでも首を傾げようものなら「かわいい! かわいい!」という声があちこちで挙がる。

 私は長年、さまざまなマスコットとそのファンを見つめてきたが、これは実に驚くべきことだ。というのも、本来は「ウチの子が一番!」なサポーターが、他所さまのマスコットに「かわいい! かわいい!」を連発することはあり得なかったからだ。そんな常識をキヅールは軽々と飛び越えてしまった。斬新さは、それだけにとどまらない。折り鶴をモティーフにした直線的なデザイン、クラウドファンディングによる3D(着ぐるみ)の製作、そしてネットでの異常なまでの盛り上がり。

 キヅールを巡っては、過去の常識を打ち破るアイデアに加えて、当事者さえも予測し得なかった現象があちこちで起こっている。まさに「キヅール現象」と命名したくなるくらいだ。そんなマスコット界の風雲児キヅールだが、その出自をたどっていくと、盛岡の厳しいクラブ経営という現実に突き当たる。実はこのマスコットは過酷な逆境の中で産声を挙げ、さまざまな人々の願いや祈りに支えられながら実体化していったのである。本稿では、宮野さんと松田さんの証言から、その知られざる誕生秘話を明らかにしていく。(収録日:2017年11月3日@東京)

<目次>

*「キヅールに決まって『あちゃー』って思いました(苦笑)」

*仕事の9割は企業再生、残り1割がマスコット開発

*マスコット投票を開始したらサーバーがダウン

*キヅール立体化の製作費はくまモンの3倍弱?

*キヅールの登場でスタンドが笑顔で溢れた

*来年のマスコット総選挙でキヅールは何位を目指す?

■「キヅールに決まって『あちゃー』って思いました(苦笑)」

――宮野さん、松田さん、今日はよろしくお願いします。本題に入る前に、今日のこのイベントの反響についての感想からお願いします。

宮野 どんな客層というか、どういう方が来られるのか、われわれは想像できなかったんですけども、思いのほか他のJクラブのサポーターの方々がいらっしゃったので、ありがたかったですね。応援しているクラブは別にあっても、それとは別にキヅールのことを応援していただいていることを実感しました。

――キヅールが盛岡のマスコットになることが決まった時点で、ネット上ではかなり話題になっていました。でも、実際にどういう人たちがキヅールに注目していたのか、今回初めてリアルに体感することができた、という感じでしょうか?

宮野 おっしゃるとおり、プロジェクトを発表したときから注目されていることはネットを通じて認識していました。当初、われわれとしてはターゲットを(岩手)県内ありきで考えていました。それが広く浅く、全国の方々からのご支援を受けることができたのは、ありがたいと感じると同時にまったく予想していなかったことでした。

――今日は強化・プロモーション担当の松田さんにも同席していただきましたが、キヅールに関しての役割分担はどのようになっているのでしょうか?

松田 僕は強化と兼務しながら、商標権の取得とプロモーションを担当しています。商標権については、専門家の方にいろいろ教えていだきながら進めています。

――松田さんは、キヅールの関心の広がりをどう見ていらっしゃいます?

松田 正直、びっくりとしか言いようがないというか。実は僕自身は4つの候補のうち「モリーオがいいんじゃないか」と思っていたんです。そしたらキヅールに決まって、正直「あちゃー」って思っていたんですね(苦笑)。それがまさか、こんなに人気が出るとは思ってもいませんでしたよ。

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