【現地取材】オーストリアが輝き、ドイツが影を潜めた夜。いつまた日は昇るのだろう
▼ 歴史的な連敗
ドイツがオーストリアに負けた。オーストリアがドイツに2度連続で勝ったのは1931年以来だという。実に92年もの月日が流れ、新たな歴史が刻まれることになった。
隣国関係のドイツとオーストリア。歴史のうねりの中で様々な変化を潜り抜けてきた。サッカーでも様々な激戦があり、特に1978年W杯アルゼンチン大会における《コルドバの死闘》は今も語り草になっている。
当時のW杯は1次リーグで4チームが総当たり戦を行い、上位2チームが2次リーグへ進出。ブラジル、スペイン、スウェーデンという強豪ぞろいの1次グループを首位で突破したオーストリアだったが、2次リーグではオランダ、イタリアに2連敗。
この時点で2次リーグ敗退が決定したオーストリアが3戦目に戦う相手が西ドイツだった。前大会優勝国であり、勝てば決勝進出を確定できる西ドイツだけに、この試合に欠けるモチベーションには大きな差があるはず。
大差を予想する声が多い中、試合を制したのがオーストリアだった。決勝ゴールは試合終了3分前とドラマティックさも最高レベル。
ドイツ目線でこの試合はその後《コルドバの屈辱》、オーストリア目線で《コルドバの軌跡》として記憶されるようになったのは興味深いところだ。
ただ長い歴史で見るとドイツ優勢のパワーバランスがあったのは否めない。「オーストリアはドイツに勝てない」、そんな歴史も長く続いた。
08年欧州選手権では母国開催オーストリアとドイツがグループリーグで対戦し、ミヒャエル・バラックのネットがちぎれるのではと思えるほどの強烈なFK弾が決勝点となりドイツが勝利している。
そんなオーストリアが久しぶりに勝利をあげたのが18年ロシアW杯前にオーストリアのグラスルーツで行われた親善試合だった。公式戦でもないから覚えていない人も多いかもしれないが、僕は現地取材をしていた。フライブルクのニルス・ペーターセンが代表デビューを飾ったことに興奮していたのを思い出す。
でも、今から振り返るとあの試合がドイツサッカー失墜の始まりだった気がしてならないのだ。
1-2での逆転負けという結果以上に、終盤の失墜ぶりはもっと危機感を持たなければならないものだったのだ。だが、14年W杯王者として誇りの自信も最大限にあったドイツは、ちょっとしたことだと思ってしまった。本番になれば、自分達が本気になれば、すべて思い通りにまた進むと。
当時監督だったヨアヒム・レーフはオーストリア戦後にこうコメントしていた。
「W杯が始まればすべて大丈夫だ」
みんながそうだと信じ切っていた。選手も、報道陣も、ファンも。サッカーはそんな簡単ではないということを、彼らはどこかで忘れてしまっていたのかもしれない。
必死に作り上げ、築き上げ、そこを駆け上がるまでには途方もない時間とエネルギーが必要になる。でも、転がり落ちるのはあっという間なのだ。つまずきへの細心の注意が欠けていたのかもしれない。結果論ではあるのだが。
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