ビッグアーチとは真逆の発想だった「街なかスタジアム」 小谷野薫(元サンフレッチェ広島代表取締役社長)<1/3>
間もなくフィナーレを迎える今季のJリーグ。2024年のシーズンを振り返った時、最も印象的だったのが「新しいスタジアムが3つもオープンしたこと」である。すなわち、エディオンピースウイング広島(Eピース)、金沢ゴーゴーカレースタジアム(ゴースタ)、そして長崎のPEACE STADIUM Connected by SoftBank(ピースタ)──。
そこで当WMは2週にわたり、今シーズン何かと話題になった新スタについて、重要な役割を果たしてきた方々へのインタビューをお届けすることにしたい。今週は元サンフレッチェ広島代表取締役社長、小谷野薫さんにご登場いただく。
小谷野さんは1963年生まれで東京都出身。東京大学教育学部卒業後、野村総合研究所、日興ソロモン・スミス・バーニー証券、クレディ・スイス証券入社を経て、2010年にエディオンの顧問となる。2013年1月にサンフレッチェ広島代表取締役社長に就任するも、2年後の広島市長選挙に立候補するために退任。結果は落選となり、再びエディオンに戻ったのち、現在は日本総合アドバイザリー事務所の代表を務めながら、Jリーグのカテゴリーダイレクターに就任している。
さて、Eピース建設のストーリーを紐解いていくと、必ず出てくるのが久保允誉と本谷祐一という歴代クラブ社長(それぞれの任期は、前者が1998~2007年、後者が2008~2012年)。彼らから「街なかスタジアム」建設という、困難なプロジェクトを受け継いだのが小谷野さんだったわけだが、前任者たちとは大きく出自が異なる。
すなわち、久保・本谷の両氏が広島出身で、なおかつエディオンの人間だったのに対し、小谷野さんは東京出身で、サンフレッチェと関わる以前は証券会社でM&A本部長だった。そんな彼がなぜ、縁もゆかりも無かった広島のJクラブの社長となり、「街なかスタジアム」建設にどのような役割を果たしたのか? この疑問を解き明かすのが、今回の取材の目的である。
20年にわたるEピースのストーリーについては、以前にも「ALL FOR HIROSHIMA」、そして本谷元社長のインタビューを掲載している。これらの答え合わせとラストピースを埋める、小谷野さんの証言。広島サポーターのみならず、スタジアムに関心のある方にはぜひ、最後までお読みいただきたい。(取材日:@2024年7月31日@東京)
■Eピースの座席数が2万8520となった理由
──今日はよろしくお願いします。今年の2月にオープンしたEピースですが、小谷野さんが初めて現地観戦されたのは、どの試合でしょうか?
小谷野 開幕の2月23日の浦和レッズ戦ですね。前社長の山本拓也さんと、ホスピタリティラウンジのある4階で一緒に観ていました。それ以前にも、サンフレッチェの節目の試合には足を運んでいました。たとえば一昨年、惜しくもPK戦で負けてしまった天皇杯決勝と優勝したルヴァンカップ決勝、どちらも現地で観戦していました。今年6月のシリアとの日本代表戦では、夫婦でEピースのバックスタンドに座って観戦していました。
──私も開幕戦とシリア戦は取材しているので、同じ空気を体感していたのはうれしいです(笑)。ところでEピースは「街なかスタジアム」ということが話題になっていますが、そもそもこのアイデアはいつ頃から語られていたのでしょうか?
小谷野 「街なかスタジアム」のコンセプトは、僕が当時のメインスポンサー(註:現在は親会社)のエディオンを通じてサンフレッチェに関わりはじめた頃、つまり2011年くらいから意識するようになりました。それを気づかせてくれたのが、Jリーグのスタジアム担当をされている「ミスター」こと佐藤(仁司)さんです。佐藤さんからのインプットは極めて有意義でしたが、特に大きなアドバイスだったのが「スタジアム建設自体を目的にせず、少しでもグローバル基準に近く、街の活性化につながるスタジアム建設を意識する」ということです。
──なるほど、具体的にはどういったことでしょうか?
小谷野 いくつかあります。まず、何よりも交通アクセスが良好であることと、陸上トラックがなくて観客席からピッチが見やすいこと。サッカーだけでない多目的な使用など、街の活性化につながる施設であること。そして、適正なキャパシティであること。
──いずれもビッグアーチとは真逆ですね(笑)。
小谷野 ズバリ、おっしゃいますね(笑)。確かにビッグアーチも、アストラムライン(モノレール)の「広域公園駅」からすぐなんですが、広島の中心街から30分以上かかってしまう。行政の人たちは「最寄り駅から近いですよ」と言っていましたが、そういう話ではないと思います。
それと僕がクラブ社長に就任する前に、「サンフレッチェって、Jリーグの中で経営指標等のランキングはどんな感じだろう」と思って、いろいろ資料を集めてみたんです。するとあるサッカー雑誌に、当時Jリーグで使用されていたスタジアムのランキングが掲載されていたんです。これが、とんでもなく低い。率直に言って、最下位に近い順位だったので大変驚きました。
──中心街からのアクセスに時間がかかり、スタンドからピッチが遠くて屋根もない、といったのが理由でしょうね。それでクラブを改革していく上で、スタジアムも何とかしなければならないと小谷野さんは考えたわけですか。
小谷野 そうです。観戦体験の満足度に直結しますからね。また、先ほど挙げた条件の中で、意外と重要なのが適正なキャパシティなんですよ。ビッグアーチはアジア大会用に作ったから5万人 収容できますが、Jリーグの公式戦で頑張って観客2万人を集めても、どうしても空席が目立ってしまう。ネット上で画像や動画を拡散する時、空席が目立ってしまうのは、コンテンツ的に非常にイメージがよろしくないわけです。
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