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アスリートが敗れた時にトレーナーはどう向き合うのか 筒井香(スポーツ心理学者・BorderLeSS代表)<2/3>

『前だけを見る力』松本光平は「ポジティブ」なのか? 筒井香(スポーツ心理学者・BorderLeSS代表)<1/3>

失明の危機にあっても松本光平が「何も変わらなかった」理由

──松本光平というフットボーラーの「本質」については、エピローグでの筒井さんのインタビューによって、ようやく種明かしされるという構成になっています。お話を伺えたのも、まさに執筆の最終段階という絶妙なタイミングでしたよね。物語の発端は、ニュージーランドでの目のアクシデントでしたが、そこから彼のフットボーラーとしてのキャリアを振り返り、最後はスポーツメンタルトレーニング指導士の分析に収斂されていくという。

筒井 お役に立てて嬉しいです(笑)。あの本を読んで感じるのは、たとえ視力に深刻なダメージを受けても、松本選手自身は何も変わらなかったということでした。実際に彼にインタビューして感じたのですが、目標に向かってトレーニングを続けることが、彼の中では中学生時代から習慣化されていたことも大きかったと思います。客観的に見れば、絶望的としか言いようのないアクシデントに見舞われても、彼自身の行動や考え方はまったく変わることはありませんでした。

──そんな彼の生き方について、私を含めた周囲は「ポジティブ」という言葉で理解しようとしていたわけですが、筒井さんへのインタビューで出てきた「レジリエンス(resilience)」という言葉が、より実相に近いことを知りました。心理学では「回復力」と訳されているそうですが、これは先天的なものなのでしょうか?

筒井 「回復力」ですから、むしろ後天的の部分が大きいと思います。大きな失敗や困難を経験しなければ、身に付ける機会はないと思いますから。松本選手のケースで言えば、それこそ中学生の頃から、何度も課題に直面しては、乗り越えるために努力を続けてきた。その繰り返しの中で、レジリエンスが高まっていったと言えるでしょうね。

──そうした分析ができるのが、まさにスポーツメンタルトレーニング指導士というお仕事であることは理解できました。ここで、あらためての質問です。ご自身の仕事について、私のような門外漢には、どのように説明されているのでしょうか?

筒井 いろんな説明の仕方があるのですが、フィジカルのトレーニングと比較することも多いですね。フィジカルトレーニングの必要性は、広く知られるようになりましたけれど、たまに「自分はメンタルが弱くないからトレーニングは必要ない」といった理由で断られることもあるんですよ。それに対して私は「じゃあ、フィジカルが弱くないから、トレーニングは必要ないって言えますか?」って、逆に聞くようにしています(笑)。

──なるほど、わかりやすい(笑)!

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