【無料公開】2019年のレガシーとは何か 松瀬学(ノンフィクション作家)<2/3>
■日本がアイルランドに勝てて南アフリカに敗れた理由
──ここから、日本代表の話に移りたいと思います。松瀬さんは大会前、日本がプール予選全勝でベスト8入りを果たすと予想していました?
松瀬 正直に言って、可能性は半分だと思っていました。2戦目のアイルランドには、僕は勝つのは難しいと思っていましたから。ただし最終戦のスコットランドには、展開次第では勝てるだろうと。なんといっても試合日程で日本は圧倒的に有利でしたからね。
──日本はサモア戦から中7日、スコットランドはロシア戦から中3日でした。ですから向こうは、ロシア戦と日本戦でまるで別のメンバーを組んできました。
松瀬 12人を入れ替えてきましたね。確かにそれで、個々の選手の負担は軽減できたかもしれないけれど、チーム全体の影響は絶対にあったと思いますよ。ロシアには勝てる自信はあったはずだけど、それでも目の前の試合には100%集中せざるを得ない。それから中3日で日本戦ですから、日程の影響がまったくないはずがないですよ。
──逆にアイルランド戦は、勝てないだろうと読んでいたわけですけれども、実際には勝ってしまいました(笑)。
松瀬 はい、勝ちました。日本代表、ファンのみなさん、すみませんでした(苦笑)。ラグビーはサッカーほど番狂わせが少ないと言われていますけれど、天候などの不確定要素によって勝敗が左右されることがあるんですね。今回の場合、スタンドオフのジョニー・セクストンが怪我の影響で不在だったが大きかった。彼が出場していたら、違った結果になっていたかもしれません。
──セクストンはベンチにも入っていませんでしたね。
松瀬 初戦のスコットランド戦で、少し痛めて大事をとったんでしょうね。彼らの目標は優勝でしたから、ある意味当然の判断だったと思います。ただ、どこかで日本を舐めていたところも否定はできないですよね。代わりに起用されたスタンドオフは、セクストンと比べると明らかに実力差がありました。加えて彼らの予想以上に、日本のセットプレーが強かったことも大きかったと思います。まさか日本にスクラムで押されるなんて、彼らは想定していなかったでしょうね。日本のスクラムはほんと、すごかったですよ。僕は感激で泣きました。
──泣きましたか! 逆に準々決勝の南アフリカ戦では、特にスクラムがそうでしたけれど、セットプレーでの地力の差を見せつけられました。
松瀬 まさに、ティア1とティア2の実力差が顕になったゲームでした。そんな中、ティア2が番狂わせをするには、セットプレーを安定させることが必須条件。南アフリカ戦では、後半、スクラムで押され、モールでも押され、ラインアウトでも歯が立たない。それじゃあ、まったく勝ち目はないですよ。
ではなぜ4年前は勝てたかというと、それこそセットプレーに安定感があったからです。加えて、あのときの試合の日本は、ほとんどミスがなかった。ついでに言うと、監督のエディー(ジョーンズ)が「ブライトンの奇跡」でやったことをバージョンアップさせたのが、イングランドがニュージーランドに勝った今大会の準決勝だったんですね。
──確かに! あの試合のイングランドも、セットプレーで安定していましたね。
松瀬 その上で、攻撃的なディフェンスでポンポン潰していって、素早い展開で相手を撹乱していました。エディーとしては4年前に日本代表でやったことを、選手がグレードアップしたイングランドでさらに発展させたんでしょう。それと試合後の会見で「2年半かけて準備してきた」と言っていたじゃないですか。グループ分けが決まってから「ニュージーランドを倒さないと決勝には行けない」と判断したんだと思います。
──ベスト4の2試合を見て、あらためて痛感するのは、日本があそこまで辿り着くのは容易ではないということでした。確かにベスト8進出は快挙でしたけれど、南アフリカにはまったく歯が立たなかったし、他の3チームにしても実力だけでなくラグビー力が違いすぎましたよね。試合前は「4年前に勝てた相手だから、次も行けるかも」という楽観論もありましたけど、ものの見事に打ち砕かれました。
松瀬 前回大会との一番の違いは、プール予選ではなくトーナメントでの対戦だったことですよ。負けたら終わりですから、相手の本気度もまったく違います。ですから、必然的な結果だったと言えるでしょうね。
<3/3>につづく(9月2日12時更新予定)