宇都宮徹壱ウェブマガジン

【無料公開】「国立開催」と「無料招待」の狙いとは? 空前のプロモーションについてJリーグに訊く<1/3>

 今月は5週あるので、過去のWMのコンテンツを蔵出しして無料公開することにしたい。ピックアップしたのは、昨年526日に掲載したJリーグの「国立開催」と「無料招待」の狙いについて。このキャンペーンに関わった、Jリーグの関係者へのグループインタビューである。

 昨年から続いている、Jリーグの国立開催。今年でいえば、30周年の「Jリーグの日」を控えた512日にはFC東京vs川崎フロンターレ、13日には鹿島アントラーズvs名古屋グランパスが開催されている。J1だけではない。79日にはFC町田ゼルビアvs東京ヴェルディ、16日には清水エスパルスvsジェフユナイテッド千葉の開催が予定されている。

FC町田ゼルビアvs東京ヴェルディ、清水エスパルスvsジェフユナイテッド千葉のチケットを10,00020,000名様にプレゼントいたします!

 こちらの告知には、このような気前の良いコピーが書かれてあった。いつものホームではない国立での開催で、しかも1試合で1万人の無料招待チケット。「これまでJリーグが積み上げてきたものを否定するかのようなキャンペーン」──。そう考える、ファン・サポーターも少なくないのではないか。そこでキャンペーンに関わった、Jリーグの「中の人」3人にお話を伺った。

 取材に応じていただいたのは、マーケティング本部本部長の笹田賢吾さん(写真左下)、プロモーション部部長の勝澤健さん(同右上)、そしてマーケティング部部長の丸山慎二さん(同右下)。一見すると破天荒と思われる当プロジェクトが、実は緻密なプランニングに基づいたJリーグの戦略であったことが、この時の取材で明らかになっている。今回の無料公開で、より多くのJリーグファンに共有できれば幸いである。(取材日:202259日。オンラインにて実施)。

【編集部註】インタビューに応じていただいた方々の現在の役職は以下のとおり。

笹田賢吾氏:執行役員(事業マーケティング本部担当)

勝澤健氏:執行役員(クラブサポート本部担当)

丸山慎二氏:マーケティング部部長

久々のCMは「あ、Jリーグやってるね」を知ってもらうため

──今日はよろしくお願いします。本題に入る前に、皆さんのそれぞれの領域と役割について確認させてください。まず笹田さんは、マーケティング本部の本部長ということですよね?

笹田 そうです。マーケティング本部は「to C」、いわゆるコンシューマー向けの業務のすべてを担う部署になっています。その中にも部署がいろいろ分かれているのですが、勝澤はプロモーション部の部長で、マスメディアからデジタルメディアに至るまでのプロモーション全般を見ています。丸山はマーケティング部の部長で、プロモーションで獲得できたJリーグIDをスタジアム集客やマネタイズ(視聴推進・EC推進など)につなげていくことを、Jクラブと伴走しながらやっていくのが仕事です。

丸山 補足しますと、他にデジタルマーケティングの共通基盤のシステムの運用やデータの分析なども担当しています。

──ありがとうございます。それでは本題に入りたいと思います。私はこのGW中、429日の国立競技場でのFC東京対ガンバ大阪を皮切りに、仙台のユアスタ、大分の昭和電工、広島のEスタ、そして大阪の吹田で取材してきました。国立では43125人を集める一方で、Eスタは天気が良かったのに1万人に届かないなど、どこも満員御礼とはいかなかったようです。マーケティング本部としては、このGWをどのように位置づけていたのでしょうか?

笹田 われわれのプロモーション・コミュニケーションについて、リーグとクラブとの間では、もともと「5つの山を作っていこう」という考えがありました。すなわち、開幕期、春休み期、GW期、夏休み期、そして終盤期。ところがご存じのとおり、今年は開幕期と春休み期がコロナの影響で、できることが限られていたんですね。GW期については、政府による50%の入場制限がなくなりましたので、ここは踏み込んでいこうという意図がまずありました。

──なるほど、開幕期と春休み期に派手なプロモーションができなかったということで、GWを前に一気に盛り返していこうとしたわけですね?

笹田 そうですね。GWと夏休みを活用して、離れていったお客さんに戻ってきていただく、そしてこれまで獲得できていなかった新しいお客さんを呼び込む。それらに関して、この2つの期は非常に重要なポイントになります。そこはリーグとクラブ、双方で課題認識を共有しながら力を入れていこうということで設計していました。

──その設計の中に、429日の1万人プロジェクトがあったわけですが、これは単に「Jリーグを観に来てください」というアピールだけでなく、デジタルマーケティングとしての狙いもあったと思います。どのような目標を掲げながら、このプロジェクトを立ち上げたのでしょうか。

笹田 まさにGWのひとつの目玉として「国立競技場を活用して、引きのあるカードの試合を行う」ことを考えていました。なるべくアクセスしやすい環境で、観たくなるようなカードを持ってくれば、新規だけでなくコロナで観戦を控えていた層も呼び込めるのではないか。そこでJリーグとしても、十数年ぶりにCMを打つことになりました。TVだけでなくデジタルも含めたプロモーションを行い、試合で得られたJリーグIDをしっかりリスト化して次につなげていこうという考え方でした。

──プロモーションに関して、勝澤さんから補足をお願いできますか?

勝澤 もちろんCMを打ったからといって、すぐに「Jリーグを観に行こう」ということにはならないと思います。それでも「あ、Jリーグやってるね」というところを感じていただいて、そこからネットで検索していただくことでJリーグやクラブの公式サイトにアクセスしていただき、試合会場に来ればワクワクするような楽しい雰囲気を感じていただく。そういった流れを作っていくために、TVSNSも含めて、全体のトーンを揃えながら一貫性をもって取り組んでいきました。

──なるほど、国立のFC東京対ガンバだけでなく、さまざまな会場の試合についても告知されていたんですね?

勝澤 そうです。TVSNS、さらには新聞やLINEでも展開させていただきました。

次のページ

1 2
« 次の記事
前の記事 »

ページ先頭へ