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【無料公開】JFLクラブからIT人材が育つことで何が起こるか? ブリオベッカ浦安とクラウディオのデュアルキャリア戦略<1/2>

 

ブリオベッカ浦安におけるセカンドキャリア

 ブリオベッカ浦安は、2016年に初めてJFL昇格を果たしたものの、わずか2シーズンで関東リーグに降格。その後は5シーズンを関東1部で戦うも、2020年と21年の2位が最高だった。昨シーズンは6位に終わったが、全社(全国社会人サッカー選手権大会)で優勝して地域CL出場権を獲得。この大会でも優勝して、見事6シーズンぶりのJFL復帰を果たした。

 とはいえ、久々に戦う全国リーグには、いろいろと苦労も絶えないようだ。クラブ代表の谷口和司によれば、大きな課題は2つあるという。

「まず、運営費をどう増やすか。JFLとなると年会費だけで1000万円かかります。遠征費も含めると、既存の戦力で戦うとしても、新たに2500万円ぐらいの予算が必要になります。次に、スタジアムに関する課題。JFLだと人工芝でホームゲームが開催できないので、千葉県内を転々としなければならない。関東リーグのアウェイに行くような感覚です。この課題については、まだまだ時間はかかりますが、各方面に働きかけをしているところです」

 そんなブリオベッカ浦安で選手たちが、IT企業でプログラミングを学んでいたのには、選手のセカンドキャリアについて、早い段階から谷口が問題意識を持っていたからだ。働きながらプレーする選手たちを、長年にわたり見守り続けてきたクラブ代表は、こう語る。

「ウチの選手の仕事には、大きく2種類に分けられます。ひとつは、引退後の就職先として、スポンサーさんに選手を受け入れていただくケース。セカンドキャリアのことも考えて、仕事の経験を積んでから、引退後に就職するというパターンですね。もうひとつは、チャンスがあればもっと上のカテゴリーに行きたいケース。これは若い選手が多いので、あまりセカンドキャリアのことは意識せず、時給の高いアルバイトをしながらサッカーを続けるパターンが多いです」

 浦安からJクラブに「ひとり昇格」するケースは、これまでにも何度かあった。2018年にFC琉球に移籍した大野敬介、23年にSC相模原にステップアップした加藤大育などである。しかし、それらは例外的なケースであり、地域リーグやJFLでのプレーのみでスパイクを脱ぐ選手のほうが圧倒的に多い。よって「引退後」についてリアルに考える傾向は、むしろJリーガーよりも強いようにも感じられる。

「大学時代から、会計士を目指していた選手がいました。会計事務所を紹介すると、事務所の仕事をしながら勉強を続けていたんですね。今年はサッカーを辞めて、会計士の資格を取るための勉強に熱を入れています。そこの事務所の社長さんと話すと、すでに戦力になっているそうです。そうやって自分が目指すところが、最初から決まっている選手も少なくないです」

 こうした明確な目的を持ってサッカーを続ける選手がいる一方で、将来に漠然とした不安を抱えたままプレーを続ける選手も少なくない。そこで谷口が意識するようになったのが「ジョブスポンサー」という存在。単なるアルバイトでなく、スキルも手にすることができれば、なお良い。そこで昨年からスタートさせたのが、銀座にオフィスを構えるIT企業のクラウディオに選手を送り込み、IT技術を学ばせることであった。

「選手のキャリアを考えた時に、しっかりしたスキルを手にしていたほうが価値は高い。そうした時に、クラウディオさんが、ウチのジョブスポンサーになってくれたんです。ここで実績を作って『ブリオベッカに行けばITスキルが学べる』と認識されれば、意識の高い大卒の選手がウチに来てくれるんじゃないか。そんなことを最初は考えていました」

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