【無料公開】JFLクラブからIT人材が育つことで何が起こるか? ブリオベッカ浦安とクラウディオのデュアルキャリア戦略<2/2>
【無料公開】JFLクラブからIT人材が育つことで何が起こるか? ブリオベッカ浦安とクラウディオのデュアルキャリア戦略<1/2>
■クラウディオとの出会いとIT業界が抱える課題
「最近、僕が考えているのは『新卒の採用なんか止めて、みんなデュアルキャリアにすればいいのではないか』ということです。日本の大学や大学院を出ても、即戦力としてITの仕事が任せられるわけではない。ですから学生のうちから、実践的なトレーニングを積むようなキャリア形成を考えたほうがいい。それはサッカー選手にも言えることですよね」
そう語るのは、ブリオベッカ浦安の選手たちを受け入れている、株式会社クラウディオの代表取締役会長、石川正明である。石川は、日本IBM、日本オラクル、アクセンチュアなどを経て、2019年にクラウディオを共同創業。静岡出身で清水エスパルスのファンでもある。実は浦安の代表、谷口もアクセンチュアの出身だが、ふたりの出会いは意外な場所だった。
「きっかけは、小学生の息子のサッカーでした。近所でしっかり運営されているクラブということで、選んだのがブリオベッカ。その後、谷口さんもアクセンチュア出身であることがわかって、それからのお付き合いでしたね」
クラウディオが、浦安のスポンサーになったのは2021年。コロナ禍の影響で、試合でのライブ配信の需要が高まり、そのための費用を受け持つ形からスタートした。それがジョブスポンサーに変わっていったのには、実はクラウディオ側が抱える業界の事情もあった。
「IT企業と聞いて、皆さんが思い浮かべるのはWeb系だと思います。われわれはエンタープライズ系といって、企業や官公庁などで利用される情報システムを扱うことが多いんです。この業界では、かつては人件費の安い海外の人材に頼り切っていたんですが、もっと国内で人材育成をしていく必要性を感じていました」
そうした問題意識から、IT業界に興味がある選手にデュアルキャリアの場を提供するという、新たな試みにシフトしていく。そのきっかけとなったのが、FWの井上翔太郎。昨年の地域CLでは、途中出場で活躍していた井上だが、一方で「IT技術を学びたい」と谷口に直談判。そこで紹介されたのがクラウディオだった。もっとも受け入れる側では当初、いろいろと試行錯誤もあったと石川は振り返る。
「井上くんの受け入れを打診された時、選手と僕らの仕事とがまったく結びつかなかったんです。とはいえ、お金以外の部分でもサポートしたいという思いはありましたので、まずは新しい人的交流が生まれれば面白いかなと思っていました」
石川によれば、ITの仕事を任せられるようになるのは、最低でも2~3年はかかるという。加えて、現役の間は試合やトレーニングが主であるため、仕事とのバランスも考えなければならない。選手との距離感に悩む中、自らの責任を実感する機会もあった。
「ブリオベッカの試合を観に行った時、井上くんのご両親にお会いしたんです。試合のことを話しているうちに『やっぱり仕事が安定しているから、落ち着いてプレーできるようになりましたね』という言葉が印象に残ったんですね。自分の子供のように大切にしなければ、という気持ちになりました」