宇都宮徹壱ウェブマガジン

【無料公開】JリーグはACLに合せてシーズン移行するべきか? クラブ側、選手側、欧州側──それぞれの視点から考える<3/3>

シーズン移行は「最初からイエスかノーではなく」

──モラスさんに質問です。ロシアやウクライナは、21世紀に入ってからシーズンを秋春制に変えましたけれど、北欧の国々は日本と同じ春秋制です。これらの国々のクラブが、CLELで上位に行くことはあまりないですが、実際のところどんな環境下でサッカーをしているのでしょうか?

モラス 宇都宮さんがおっしゃるとおり、ノルウェーとスウェーデンはJリーグと同じような形で春秋制。デンマークはドイツと同じ秋春制です。12月に休暇も兼ねてノルウェーに行って、世界で最も北にあるプロクラブのトロムソを訪れたんですけど、当然ながら冬は屋外での練習ができない。ですので、インドアの施設を活用しながら、時々はスペインやトルコで合宿をするそうです。北極圏に近い土地でプロサッカークラブが活動するためには、やはりハード面のところが大きなポイントになるでしょうね。

──モラスさんがいらっしゃるインスブルックでも、冬は雪が降ると思うんですけど、ハード面で何とかなっているのでしょうか?

モラス スタジアムのピッチには、ヒーティングシステムが入っているんですけど、試合当日に雪が降ってしまうと溶けないですよね。日本でもよく「雪国のスタジアムにヒーティングシステムを入れればいい」という意見がありますけれど、それで問題が一挙に解決するとは思えない。それはこっちに来て、何度も経験していることですから(苦笑)。

──本日は、シーズン移行を行った場合のメリットとデメリットについて、皆さんに語り合っていただきました。やはり「ACLのシーズンが変わったから」とか「FIFAに怒られたから」という理由だけで、日本サッカーのピラミッド全体でシーズンを変えてしまうのは、いろいろ不都合なことが多いというのが私自身の実感です。最後におひとりずつ、今日の議論を終えての感想やご意見をいただければと思います。

長岡 繰り返しになってしまいますけれど、クラブ経営で一番に考えなければならないことといえば、やっぱりお客さんに足を運んでもらえることだと思うんですよ。もちろん日本代表の強化も大事ですけど、代表を下支えしているのはクラブであり、さらに言えばファン・サポーターであるわけです。その人たちの意見を、どれだけ集約して、いい形にもっていけるか。それは永遠のテーマなのかなって思います。

田邊 Jリーグが10クラブで開幕した時、最初は「みんな平等にやっていきましょう」というところから始まったんです。それからクラブの数が増えていく中で、次第にそれぞれのカラーが明確化していって、クラブ間の経済格差がだんだん顕著になっていきました。スタートした時点での理念から、だんだん当てはまらないことが増えていって、その中にシーズン移行の話もあるんだと思います。雪国や北国のクラブからしたら「おいおい、話が違うじゃないか」って話ですよね。

 シーズンを変える、変えないという議論については、何が問題なのかという議論をしっかり掘り下げていかないと、ファンやサポーターの人たちは納得しないと思います。その一方で、サッカーの世界というものは、良くも悪くもFIFAの意向を汲みながら進んでいくんですよ。これほど全世界をオーガナイズできる国際スポーツ団体というのは、FIFA以外にはないと思います。そのFIFAが「世界のシーズンを統一する」という意向であれば、日本もそっちに方向に向かって進んでいく気がしています。

モラス FIFAが求めている方向に進むのか、それとも国内事情を考慮して日本独自のやり方を守るのか。どちらになっても、指導者はその方針に柔軟に対応していくしかないので、僕自身はイエスでもノーでもないです。ただ世界的に見れば、やっぱり秋春制の方向に進んできているのかなって思いますね。

 とはいえ世界を見渡すと、南米やアメリカは独自のカレンダーでやっていますし、ヨーロッパでいえばスウェーデンやノルウェーがそうですよね。特に北欧の国々は、国内リーグとUEFAの大会とのズレを、どうやって解消しているのか? シーズン移行に関して、最初からイエスかノーではなく、そうした事例をしっかり精査しながら判断していくべきではないかと思います。

──長岡さん、田邊さん、モラスさん。今日はありがとうございました。

<この稿、了>

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