宇都宮徹壱ウェブマガジン

【無料公開】JリーグはACLに合せてシーズン移行するべきか? クラブ側、選手側、欧州側──それぞれの視点から考える<1/3>

 今週は5週目ということで、過去のWMのコンテンツを蔵出しして、無料公開とすることとしたい。今回チョイスしたのは、昨年4月21日に掲載した「シーズン移行」についての座談会。参加していただいたのは、こちらのお三方である。

 まず、5つのJクラブ(鹿島、新潟、湘南、鳥栖、北九州)のフロントスタッフとしての実務経験をもつ長岡茂さん。株式会社ジェブエンターテイメント代表取締役で、数多くの選手や監督のエージェント業務に携わってきた田邊伸明さん。そして、日本とヨーロッパでの指導経験を持つモラス雅輝さん(当時はFCヴァッカー・インスブルックU-23監督)。長岡さんにはクラブ視点、田邊さんには選手視点、モラスさんには欧州と日本の両方の現場を知る視点から語っていただいた。

 実はJリーグの秋春制導入については、JFAの田嶋幸三会長から提案があったものを1年かけて議論したものの2017年12月12日の理事会で否決されている。否決の理由について、当時の村井満チェアマンは以下の9つの理由を挙げている。少し長くなるが引用しよう。

1)移行しない方が、リーグ戦実施可能期間が1カ月以上長い。

2)移行するとシーズン終盤の4月と5月に、ACLのグループステージ終盤やラウンド16が入る。出場4クラブだけが、リーグ戦最終局面を厳しい日程で戦うことになる。

3)移行しても1月に移籍する選手は減らない可能性が高い。また夏のウインドウなら移籍金が少なく済むとは言い切れない。

4)シーズン末に決勝が集中することは世界基準で違和感がない。

5)「雪国に相当設備のスタジアム等が整備されるだろう」という期待を前提とした移行を経営リスクと捉えるクラブ経営者が多い。

6)移行期の0.5年または1.5年での収益確保は、Jリーグ54クラブそれぞれの課題で難易度が高い。

7)現シーズンは学校年度と完全ではないが、ほぼ揃っている。移行して半年ずれてしまうマイナスは大きい。

8)企業との期ずれも、企業側でヒアリングしたところ、修正は難しいとの見方が多い。

9)移行カレンダーの1月と2月に計4試合予定されているルヴァンカップは、検証したところ他の期日にプロットできない。Jリーグはルヴァンカップを全国のホームタウンで通年開催したいと考えており、移行カレンダーではルヴァンカップが成立しておらず、Jリーグの考えではカレンダー自体が成立していない。

 それから5年後の2022年、AFCは2023−24シーズンからACLを秋春制に移行することを決定。予選ラウンドを8月、グループステージを9月から12月、ノックアウトステージを翌年2月から5月まで行うことを発表した。これを受けてJリーグも、先月からシーズン移行の議論を再開させている。

  シーズン移行というテーマは、ACLに出場するクラブや雪が多い地域のクラブだけでなく、日本のサッカーファン全員が当事者。加えていえば、一度シーズンを変えてしまうと、簡単に元に戻せるものでもない。今後、Jリーグがどのような結論を出すのかはわからない。が、賛成にせよ反対にせよ、その前提となる諸問題をサッカーファンの間で共有する機会となれば幸いである。(取材日:2022年3月22日。オンラインで収録)

■「少なくともJFAでは」シーズン移行は既定路線?

──皆さん、今日はよろしくお願いします。就任会見で野々村芳和チェアマンは「サッカーは作品。多くの人に伝える作品をどう作るかがポイント」と語っていました。この「どう作るか」の方策のひとつに、Jリーグのシーズン移行が含まれているのではないかと噂されています。いくつかの報道では、新チェアマンは「シーズン移行に前向き」という書き方をされていましたが、野々村さんはどのくらいリアルに考えているかが気になります。この中で、最も交流がありそうな田邊さん、いかがでしょう?

田邊 野々村さんとはよく話しますけど、チェアマン就任にあたって何を考えているかは聞いたことないです。

──では田邊さんご自身は、この件についてどう見ているんでしょうか?

田邊 個人的に思うのは「何のためにシーズンを変えるのか?」というのが重要で、その目的によって是非が変わってくるんじゃないでしょうか。そもそもこの話って、JリーグではなくJFAの会長選挙の時に、田嶋幸三さんが掲げていたことだと思うんです。結果として田嶋さんが会長となっても、シーズンは変わらずに今に至っていますが、少なくともJFAではシーズン移行は既定路線なんだと思います。そうですよね、長岡さん?

 長岡 そんな感じですよね。JFAの思惑はいったん置くとして、Jクラブの立場で言えば、特に雪が多い地域がホームタウンであれば「絶対に嫌だ!」と言うほかないですよ。この間も、いわてグルージャ盛岡の試合前日に雪が降って、地元の高校生が除雪作業をしていましたけれど、要するに人力で何とかするしかないんです。そういう除雪にかかるコストって、特定のクラブだけに負担させていいのかって話ですよ。

──さすがに新潟にもいらしただけあって、長岡さんの言葉には説得力が感じられます。私も以前、シーズンオフではありましたが、雪が降り積もるビッグスワンを訪れたことがありました。ピッチの除雪だけでなく、スタンドの階段も凍っていますから、滑りやすくて危険なんですよね。「こんな状況で、試合をやってはいけない」と、あの時は心の底から思いました。

長岡 雪国だと11月下旬から3月になっても雪のリスクがあります。しかも除雪にしても1回やればOKという話ではなく、数時間後にまたドカ雪になることもありますから。そういう除雪をはじめとするコストを、雪国のクラブだけが支払い続けることになるわけです。

 そもそもスタジアムだけの問題でもないんですよね。練習場だって雪かきしなければならないし、吹雪の中でお客さんがスタジアムに来てくれるのかという問題もあります。冬の間は入場料収入の面でも、雪国のクラブはハンディを負うことになるわけですよ。本当にシーズンを変えるとして、そういった課題を抱えるクラブに対して、Jリーグはどれだけ面倒を見てくれるんでしょうかね。

──モラスさんはJリーグとヨーロッパ、両方の現場をご経験されているわけですけれど、そもそもヨーロッパはなぜシーズンが秋に始まって春に終わるのでしょうか? もちろん「それが伝統だから」と言われればそれまでなんですけど(笑)。

モラス 確かに、伝統を大切にしているところはあると思いますけれど、実は学校制度がベースになっている部分も大きいと思います。僕らはプロサッカーの世界で生きていますが、アマチュアでサッカーを楽しんでいる人もたくさんいますし、育成年代の少年少女のことも考えないといけない。ドイツ語圏の国々だと、学年が変わるのは9月ですから、そこに合わせていく必要は、どうしてもあると思います。日本サッカーもまた、日本の学校制度や社会制度を考慮する必要があるんじゃないですかね。

──実はヨーロッパでも、学校制度がベースになっているというのは、ちょっと新鮮なご意見ですね。ちなみにモラスさんは、野々村さんとの面識は?

モラス もちろんありますし、何度かお話もさせていただいています。野々村さんも北海道コンサドーレ札幌で社長をされていたわけですから、その経験を生かして解決策を打ち出していくんじゃないかと思いますね。

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