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【無料公開】JリーグはACLに合せてシーズン移行するべきか? クラブ側、選手側、欧州側──それぞれの視点から考える<2/3>

【無料公開】JリーグはACLに合せてシーズン移行するべきか? クラブ側、選手側、欧州側──それぞれの視点から考える<1/3>

シーズン移行で欧州移籍のハードルは下がるのか?

──40代以下のサッカーファンには、あまり知られていないかもしれませんけれど、Jリーグの前身であるJSLは、1985年から秋春制で行われていました。長岡さんは鹿島アントラーズで働き始める前、古河電工にいらしたわけですが、当時のことはよく覚えていらっしゃるのでは?

長岡 僕は85年入社でしたから、まさにシーズンが変わったタイミングでしたね。おそらく当時も、夏場のパフォーマンス低下を考慮してシーズン移行を決断したと思うんですよ。でも運営担当は、嫌で嫌でしょうがなかった(苦笑)。JSLは首都圏のチームが多かったですけれど、それでも雪が降る時は降りましたからね。

──ちょうど「日本サッカー冬の時代」と呼ばれていた頃じゃないですか。集客アップという目論見もあったんでしょうか?

長岡 そういうのは、あったと思うんです。プロ野球との競合を避けるという狙いもあったはずです。シーズンをずらしたらメディア露出も増えて、お客さんも取り込めるんじゃないかという思惑も、おそらくあったでしょう。でも実際には「まあ、いいか」で決めてしまった部分もあったんじゃないですかね。実際、どれだけ集客に貢献したのか、きちんと検証されていたのかもわかりませんが。

──モラスさんに質問です。ヨーロッパではウィンターブレイクがあるわけですが、オーストリアの場合はどれくらいの期間があるのでしょうか?

モラス 男子の場合は12月中旬に最後の試合があって、再開するのは2月中旬なのでだいたい2カ月。ですから日本からオーストリアに選手が移籍する場合、1月から2月にかけてしっかり準備できるので、実は冬の移籍のほうがアジャストしやすいですね。夏の移籍のほうが、準備期間は短いです。ちなみに女子の場合だと、11月中旬から3月初旬まで3カ月半のブレイクとなります。

長岡 WEリーグとあまり変わらないですよね。3カ月以上も空いてしまうと、メディアの露出が極端に落ちるから、ファンでも忘れてしまいそうですよ。

田邊 そういえばJリーグができた時、みんな1月に法人の決算期を合わせたんですよね? またシーズンを変えるとなると、契約のサイクルの問題が発生すると思います。つまり選手の契約が、決算期をまたぐことになるんです。それと、高校や大学を卒業した選手と、いつから契約すればいいのかという問題も出てくる。3月で卒業して9月で開幕となったら、半年間は「セカンドウィンドウ」から登録する形になるんでしょうか。

──当然、学校制度とのズレの問題も出てきますよね。ヨーロッパ側から見ると、Jリーグがシーズンを合わせたほうが、日本人選手を受け入れやすくなるんでしょうか? 

モラス たとえばドイツのように、しっかりと夏の準備期間があるような国であれば、移籍しやすくなる可能性はあります。ただしヨーロッパで仕事をしていて思うのは、そこまで日本人選手が注目されているわけではない、ということです。ですから「日本のシーズンが変わったほうがありがたい」という議論になるかどうかは微妙ですね。

──そうして考えると、シーズン移行をするメリットって、どこにあるのかという話になってきますよね。クラブ側にメリットはあるんでしょうか?

長岡 メリット以前に、解決しなければならない課題のほうが多いんじゃないですか? 先ほど田邊さんが指摘されたように、まず決算期や学校のズレが生じる問題があります。ウィンターブレイクの間、北国のクラブは暖かいところでキャンプしなければならないので、そのコストをどうするんだという問題もあります。それと冬の間、アウェーばかりで試合を行うとなると、地元のファンは面白くないですよね。少なくともクラブ側の人間からすると、やらなければならない仕事が、ものすごく増えるのは間違いないです。

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