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【無料公開】『東欧サッカークロニクル』への道 長束恭行(サッカージャーナリスト・通訳)<2/2>

クロアチアでも「日本のサッカーは認められている」?

──私と長束さんとは、それなりに長い付き合いなんですが、一緒に仕事をさせていただいたのは1回だけなんですよね。06年春のクロアチア取材。いろいろトラブルがありましたが、今となってはいい思い出です。アレン・ボクシッチにも会えたし、アリョーシャ・アサノビッチにもスラベン・ビリッチにも会えた。あのビリッチが、まさかクロアチア代表の監督になるなんてね(笑)。

長束 その時は思わなかったですね(笑)。当時はビリッチがU-21代表の監督、アサノビッチが右腕でコーチをしていました。そういえば、アサノビッチにインタビューするはずが、いきなりボクシッチが現れたので急きょ彼のインタビューに切り替えて。

──そうでした! ワールドカップの話を聞いたら「興味ねえよ! 重要なのはCLだ!」とか言っていましたね(笑)。彼は今、どうしているんでしょうか?

長束 何もやっていないと思います。ハイドゥク・スプリトの副会長を半年ぐらいやって。今は悠々自適ですね。ダルマチア人らしいなと(笑)。

──ニコ・クラニチャルとルカ・モドリッチにもインタビューできました。あのモドリッチが、その後あれだけブレイクするとはね。われわれは日本メディアとして、最初にモドリッチにインタビューしたことは、ここであらためて強調しておきたいです!

長束 今ではすっかり有名になりましたが、会うと挨拶してくれます(笑)。

──お話も尽きないのですが、そろそろまとめに入りましょう。今年(10年)のワールドカップは、残念ながらクロアチアは出場できませんでした。長束さんはTVでご覧になったと思いますが、クロアチア国民の関心度はどうだったんでしょう?

長束 ぜんぜん見てなかったですね。ブックメーカーで賭けるくらいで。ただ、日本代表のことは「よくやった」と評価しています。みんな「ホンダ、ホンダ」と言いますし。あと、最近は香川真司が話題になっていますね。デンマーク戦で日本が2点リードでハーフタイムになったときに、TVの司会者が「デンマークの子供たちは『日出ずる国』が中国や韓国ではなく日本であることを知っただろう」と言ったんですね。それをTwitterに書いたら、リツイートがすごかったです(笑)。

──長束さんもザグレブで鼻が高かったのでは?

長束 みんな「日本やったな!」と。うれしかったですよ。よく日本サッカーを世界と比較して「日本はこの程度だ」みたいな言説があるじゃないですか。すごくナンセンスだと思うんですよ。日本のサッカーは認められているんです、皆さんが思っている以上に。

──海外から見ていると、また違った視点がありますね。そういう見方は貴重です。

長束 僕は日本に適応できなくて海外へ行きましたが、逆にだんだん愛国心が湧いてきましたね(笑)。クロアチアは06年のワールドカップで日本と対戦していますし、98年大会でも「最も苦戦したのはフランス戦ではなく日本戦だった」と言われているんです。Jリーグも意外と知られています。賭けの対象になっていますから、KashiwaKashimaの違いも彼らはわかっているんです(笑)。

──それはすごい! ところでクロアチアを離れてから、次はどちらに向かうことになるんでしょうか?

長束 実は家庭の事情で、2月末を持ってリトアニアに移ります。リトアニアに住みながらも、クロアチアを中心に旧ユーゴサッカーはフォローするつもりです。プロシネチキがレッドスターに行きましたから、ベオグラードにも行きたいですね。あと、バルト3国のサッカーも追いたい。「バルティック・リーグ」というのがあって、エストニア、ラトビア、リトアニアのクラブ単位で行なわれます。あとはユーロ2012ですね。ポーランドとウクライナの共催ですから。

──この次はザグレブではなく、ビリニュスでお会いしましょう。私もバルト3国の中で、リトアニアにだけは行ったことがないので。長束さんの新たなステージでのご活躍を期待しています!

長束 まあ正直、将来についてはちょっと悩んでいます。今はクロアチアという国に失望しているかもしれませんが、それでもやっぱり感謝していますよ。あの国に10年暮らしてみて、自分の見えなかった方向性を見つけられましたから。

<この項、了>

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