宇都宮徹壱ウェブマガジン

WEリーグ開幕とコロナ禍のなかで ヨコハマ・フットボール映画祭2021

 10月9日と10日、横浜市のかなっくホールで開催されるヨコハマ・フットボール映画祭2021。昨日アップしたこちらの動画では、映画祭の実行委員長である福島成人さん、そしてイベント担当の加藤麟太郎さんに、今回の上映作品について熱く語っていただいた。

 例年は1月に開催される映画祭だが、今年は緊急事態宣言の影響もあり、いったん延期となって10月にようやく実現することとなった。当WMはフットボール映画祭の第1回からフォローしているが、第11回となる今回は最も危機的な状況を迎えたと言ってよい。そうした状況にあって、年内での開催にこぎつけることができたことについては、映画祭関係者の皆さんのご尽力に心からの拍手を申し上げる次第である。

 一方で、今回の取材であらためて気付かされたことがある。それは今回ご登場いただいた加藤さんをはじめ、新世代のスタッフの成長ぶりが感じられることである。もちろん福島さんには、まだまだ頑張っていただきたい。しかしその一方で、素晴らしい後継者候補が育ってきているところに、ヨコハマ・フットボール映画祭の未来が明るいことを密かに実感した次第である。(取材:2021年8月30日@東京)

 <目次>

*女子サッカーと映画が結び付きやすい理由とは

*展示ブースにはマラドーナのユニフォームが!

*とにかく「サッカーが好きだ!」という方々に

■女子サッカーと映画が結び付きやすい理由とは

 ──ここであらためて、今年1月のヨコハマ・フットボール映画祭が延期に至った背景を伺いたいと思います。苦渋の決断だったと思いますが、まずは福島さんからお願いします。

福島 スタッフ全員でミーティングしての結論でした。その時点では、行政などから禁止命令もなくて、開催できなくはなかったのです。ただ、この映画祭の開催にあたっては横浜市や文化庁などの公共セクターからの支援も大きいことを考えると、無理やり開催するのは社会からの期待に反することになるのでは、という考えからでした。

 もちろん、2021年が始まったばかりですので、年内にまた開催できるチャンスがあるという目論見も一方ではありました。結果、横浜市やかなっくホールの協力により、新日程の予約もスムーズに対応いただき、10月開催が実現することになりました。

加藤 福島とも話したんですけれども、この映画祭の一番の良さは何かと考えたとき、スタッフとお客さんの距離感がすごく近いことなんですよね。作品の上映だけでなく、パーティーだったりフットボール文化祭だったり、そういうところでどんどんコミュニケーションが取れることが、この映画祭の強みだと思うんです。オンラインでの上映というアイデアもあったんですけれど「それだと映画祭の魅力が半減してしまうよね」という話になって、もう少し状況が良くなるまで待ちましょう、という話になりました。 

──思えば去年の映画祭は、新型コロナがまだ「対岸の火事」という空気感でしたよね。まさか世界中でパンデミックになるとは、あの時は誰も想像もしませんでした。そうして考えると、今回の第11回はコロナ禍で初めて開催されるヨコハマ・フットボール映画祭、ということになりますよね。

福島 そうなんですよ。しかも客観的な事実として、神奈川県の新規感染者数は1月のときよりも今のほうが多いですからね。そこのところを、どう整合性をつけていくか。その結論として「きちんと感染症対策をとり、安心して開催することを追求していく」ということになりました。会場に来られた方には、ご不便をかける場面も出てくるかと思いますが、ぜひ、ご協力いただければと思います。

──大事なことですね。ところで今回の上映作品ですが、WEリーグ開幕年ということで、女子サッカーをテーマにした作品がいつも以上に多くチョイスされています。それぞれの作品については動画で紹介させていただきましたが、よくぞこれだけ多くの女子サッカー映画が揃いましたね!

福島 もともとヨーロッパでも女子サッカーが盛り上がっていたことに加えて、映画業界でも女性の待遇改善、地位向上への意識の高まりがありました。つまり女子サッカーと映画とが、非常に結びつきやすい背景があったんですよね。そうした中で、今年の映画祭ではWEリーグ開幕に先駆けて盛り上げていこうという思惑があったのですが……

──それが逆になってしまったと(苦笑)。加藤くんは、今回の女子サッカーの作品群を見て、どんな感想を持ったんでしょうか?

加藤 それぞれに印象的でした。まず『フートボールの時間』ですが、授業にサッカーを取り入れた女学校が大正時代にあったという実話に基づいた演劇です。登場人物が「百年後のフートボール」について語っている場面があるんですが、JFAが今年で百周年であることを考えると感慨深いですよね。『オリンピック・リヨン』は、とにかく映像がカッコよかったですし、女子でもあれほどお客さんが入っていることが驚きでした。

 そして僕がタイトルを考えた『壁を壊せ!』ですが、ドイツといえば女子サッカーが盛んで、誰もがスポーツを楽しむことができるというイメージがあるじゃないですか。けれども、つい40年くらい前には女性にサッカーをプレーすることが認められない時代があったということを、この作品で初めて知りました。とても学びの多い作品でしたね。

福島 女子サッカーに限らず「欧米=意識が高い、アジア=意識が低い」的なとらえ方って自分も含めて陥りがちなのですが、ドイツで女子サッカーが禁止されていた時代に、世界大会をホストしたのは台湾だったり。それと『オリンピック・リヨン』にしても、あれだけ試合会場が盛り上がっていても「女子の選手は男子と比べて尊敬されていない」みたいなセリフが出てくるわけです。それぞれに事情や困難がありながらも、よりよい状況に向かっていこうとしている方向性を感じてもらえればと思います。

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