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【無料公開】『東欧サッカークロニクル』への道 長束恭行(サッカージャーナリスト・通訳)<2/2>

どこの国に行っても旧ユーゴ系の選手がプレーしている

──長束さんといえば、最近はヨーロッパの辺境地に関する秀逸なレポートが注目を集めています。バルト3国もそうだし、キプロス、それからモルドバの沿ドニエストル共和国のレポートも非常に興味深かったです。

長束 西側の情報は、ずいぶん報道され尽くされていると思うんですよ。だけどモルドバとかキプロスとかは、まだまだ報道されていないので。ただ、そのきっかけになるのは、クロアチアのメディアですね。彼らは欧州各国にネットワークを持っていて、例えばシェリフ・ティラスポリ(モルドバ=沿ドニエストル共和国)と対戦するとなると、そこにいるボスニア人やクロアチア人の選手に連絡して情報収集するんですよ。

──ドニエストルのチームにも、旧ユーゴ系の選手はいるんですね?

長束 というか、どこの国に行っても旧ユーゴ人を通じて、現地のサッカー事情を知ることができるんです。それが非常に面白いですね。それに僕は、言葉がしゃべれる珍しい日本人ですから、彼らにアプローチしやすいというのはありました。ドニエストルに行ったのは、BBB(編集部註:ディナモ・ザグレブのサポーターであるバッド・ブルー・ボーイズの略)が行くというのが大きな理由でした。クロアチアを去ることは決まっていたので、できるだけマイナーな国のアウェー戦に彼らと一緒に行きたかったんです。

──なるほど、まさに「思い出づくり」だったんですね(笑)。それにしても日本人である長束さんは、どういうきっかけでBBBに入会することになったんでしょうか?

長束 2000年にスロバキアで行なわれたU-21欧州選手権ですね。U-21の応援に駆けつけるのは、本当にコアなサポーターです。その中にBBBの連中がいて、僕がクロアチアに住み始めてから彼らと仲良くなりました。最初の半年ぐらいは、友だちらしい友だちがいなかったんですけど、彼らの事務所に行くと話し相手がいるわけですよ。そこで汚い言葉ばかり教えてくれる(笑)。

──その事務所には一度、長束さんに連れて行ってもらったことがありましたね。壁一面がブルーで塗られていたのが印象的でした。BBBの構成員は、結婚したら脱退するのがしきたりという話も、その時に聞いたように思いますが。

長束 義務ではないですが、だいたい結婚すると抜けますね。結婚して子供ができて、試合に行かなくなって。結婚式のときは、ライスシャワーの代わりに発煙筒を焚きます。その間を新郎新婦が歩くんです(笑)。

──それ、すごい(笑)! それにしてもBBBのような過激なサポーター集団って、あまり外国人を受け入れないイメージがあるのですが、長束さんはよく仲間に入れてもらえましたね。

長束 面白いもので、その頃の世代は違ったんです。クロアチア人は、自分たちがマイナーな国だという自覚はあるんです。ですから、自分たちの国を愛してくれる外国人はリスペクトの対象だったんですよ。BBBも当時はそうでした。レンタカーを借りて、6人ぐらいでイタリアに遠征したとき、向こうのサービスエリアで彼らはサンドイッチとかを万引きするんです(苦笑)。そんなときに「それはクロアチアの恥だろう!」と日本人の僕が注意するんですよ(笑)。

──面白すぎる(爆笑)! そういえば2002年のワールドカップ日韓大会のとき、初めて日本に行く仲間のために、いろいろ手助けしたそうですが。

長束 そうです。それでセレッソ大阪のサポーターとつないだんですけど、15人のうち6人が入国禁止だったんです。フーリガン対策リストに載っていたので、関空で足止め食らいました。それで2日くらい空港に留め置かれている間、「エロ本がほしい」とリクエストしたら、差し出されたのが週刊ポスト(笑)。「こんなのエロ本じゃねえよ!」と不満たらたらだったそうです。日韓ワールドカップの知られざるエピソードですね。

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