宇都宮徹壱ウェブマガジン

【無料公開】福島成人実行委員長が語る注目作品 ヨコハマ・フットボール映画祭2020<2/2>

「プレミア以前」のリバプールとアーセナル

──クロアチア、チェコ、イタリアときて、今度はイングランドの映画ですね。タイトルが『89』ということで、これは1989年のことですよね。最初に紹介したクロアチアの『ZG80』も89年の旧ユーゴが舞台でした。まさに時代が変わるタイミングだったんでしょうね。

福島 そうですよね。同じ年にイングランドのサッカー界で起こった出来事を取り上げているんですけど、まだプレミアリーグが開幕していなかったので、単純に(イングリッシュ)フットボールリーグの時代のお話です。この年はリバプールが圧倒的に強くて、それをアーセナルが追いかける展開。そして最終節にリバプールのホームで直接対決があるんですけど、アウェーのアーセナルが2点差以上で勝利すれば、逆転優勝できるという状況だったんですね。

──去年の横浜F・マリノス対FC東京みたいな状況ですね。

福島 まあ、あえて試合のネタバレは控えますが(苦笑)。試合以外でも、プレミア開幕前のイングランド・サッカーの雰囲気だったり、当時のファッションだったり、いろいろノスタルジックな部分でも楽しめる作品だと思います。

──胸スポンサーがJVCとかSHARPとか、まだまだ日本企業が多かったことにも時代を感じますよね。そういえばニック・ホーンビィの『ぼくのプレミア・ライフ』でも、この試合についての言及があったように記憶しているんですが。

福島 まさに、あの小説のクライマックスがこの試合でした。ですから、実際にどういう試合だったのかを知る上でも、貴重な映像だと思います。ついでに言えば、ちょうど三菱ダイヤモンドサッカーが終わって、CSでプレミアリーグの放送が始まる前なので、この映像を日本で見る機会は非常に限られているんですよ。

──確かに。ところでこの『89』ですけど、今回のYFFFでは「無料公開」となっています。何か理由があるんでしょうか?

福島 当時の映像をふんだんに使ったドキュメンタリーなので、有料で上映すると権利金が追加発生するんですよね。その交渉が上手くまとまらなかったので、今回は無料で上映することにしました。ちなみに上映前に、笹木香利さんというガチグナ(ガチのグナー=アーセナルファン)のタレントさんにトークをしていただくんですけど、そちらのほうにお金を払っていただいてから、無料上映という形にさせていただきました。でないと、完全に赤字になってしまいますので、そこは切にお願いします(笑)。

──海外からの最後の作品が『レゲエ・ボーイズ』。これはジャマイカ代表のことですね。98年のワールドカップでは、クロアチアと同様、日本と対戦しているわけですが。

福島 ジャマイカといえば、やっぱり98年のフランスのイメージが強いですよね。ただし作品自体は、その後日談という感じです。念願のワールドカップ初出場を果たしたジャマイカは、その後はなかなか成績が振るわず、北中米カリブ予選をずっと突破できていないんですね。それで2013年にドイツ人のヴィンフリート・シェーファーを監督に迎えるんですが、この人がけっこう面白くて「ジャマイカの文化を理解するには、まずレゲエを知らなければならない」と(笑)。

──外国人指導者が日本代表監督に就任するにあたり、まずは歌舞伎とか相撲を見に行く感じですかね(笑)。

福島 本当にそんな感じで(笑)、ボブ・マーリーと一緒に活動していた伝説的なレゲエ・ミュージシャンのバニー・ウェイラーに教えを請いにいくんです。そこで得たアドバイスをチーム作りに活かしていくという。ジャマイカ代表だけでなく、メキシコとかアメリカのような強豪国も出てきますし、CONCACAF(北中米カリブ海サッカー連盟)特有のスタジアムの雰囲気というものもふんだんに盛り込まれています。

──これも楽しみですね。海外からの作品は以上になりますけれど、全体的な傾向みたいなものについてはいかがでしょうか?

福島 今回は歴史ものが多くなりましたね。一方でクロアチアであったりジャマイカであったり、日本とワールドカップで対戦する国も出てきて、僕たちの代表も世界のサッカーの歴史の中で積み重ねてきたんだなと、あらためて気付かされる部分もあると思いました。

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