宇都宮徹壱ウェブマガジン

「欧州と日本をつなげるメディアでありたい」 浅野賀一(footballista編集長)インタビュー<1/2>

 今週はfootballista(フットボリスタ)の編集長、浅野賀一さんをゲストにお迎えする。footballistaについては、サッカーファンなら説明するまでもないだろう。海外サッカー専門誌として、2006年10月に創刊。当初は週刊誌であったが、13年8月に月刊化。浅野さんは15年8月に2代目編集長となっている。論客としても知られ、先のハリルホジッチ監督電撃解任では、同業者の中でいち早く、明確な「否」を唱えた(参照)

 今回、浅野さんと語り合いたかったのは、footballistaのウェブ戦略についてである。紙メディアのウェブへの展開(あるいは移行)は、サッカー業界に限らず今では主流となりつつある。中には紙を終了させ、ウェブに特化することで生き残りを懸けるメディアも珍しくない。そんな中、footballistaが目指したのは「紙とウェブに統一感を持たせる」、そして「PVベースで記事を出すやり方は止める」ということであった。とりわけ後者については、ネットメディアの観点からすると非常に思い切った決断であったと言えよう。

 footballistaのウェブがリニューアルされたのが1年前。独自のウェブ展開を押し進めることで、雑誌の方向性もさらに明確化したように感じられる。紙とウェブの両立と補完関係は、とりわけ紙から出発したメディアにとって最大の関心事であろう。footballistaの事例は、ジャンルを超えて参考になる部分は少なくないと確信する。それではさっそく、浅野編集長にご登場いただくことにしよう。(取材日:2018年3月13日@東京)

<目次>

*サッカー専門誌に吹きつける2つの逆風

*「ポジショナルプレー」と「5レーン」

*雑誌とウェブを分業しない編集方針

*創刊当初は「エル・ゴラッソに近かった」

*時事性を意識した特集は売れない?

*欧州でも増えている深掘り系の記事

サッカー専門誌に吹きつける2つの逆風

──ちょうど昨日、サッカー本大賞の授賞式でお会いしたばかりですが、(footballistaの版元である)ソル・メディアさんの書籍が毎年エントリーされる中、今年の授賞式はどんな印象を持たれましたか?

浅野 選考委員長の佐山(一郎)さんも仰ってましたけど、やっぱりサッカー本がどんどん少なくなってきているっていうのはすごく感じています。それはサッカーメディア全体にも言えることで、たとえばNumberさんあたりも、ザッケローニが日本代表監督だった時代までは、わりと国内外のサッカー特集を組んでいたんですけど、最近はフィギュアスケートの羽生(結弦)くんを取り上げることが多くなりました。要するにサッカーという競技そのものへの逆風というのは感じますね。

──Numberはグラフィカルなカッコよさに目が行ってしまうけれど、実のところは非常に大衆を意識した作りをしていますからね。確かにここ数年、サッカーの扱いは少なくなっているのは間違いないです。

浅野 もうひとつの逆風というのが、これも宇都宮さんはお気づきだと思いますが、ウェブの無料記事がいくらでも読めるようになったこと。もちろん野球とかテニスとかもそうだと思うんですけど、それらに比べてサッカーの情報はどこもものすごく充実していますよね。ですからスマホである程度の情報を摂取していれば、それで十分に満ち足りてしまうという状況があります。

──PCとスマートフォンの比率は、最近では3:7から2:8くらいというデータもあるらしいですからね。私のWMでも、スマホでの見せ方を意識した写真のチョイスを心がけるようにしています。まあ、ウチの場合は有料コンテンツですけど。

浅野 なるほど、そうなんですよね。われわれもウェブサイトに関しては、スマホに最適化しています。今の若いサッカーファンは、海外サッカーの情報をスマホで読むのが当たり前になっている。そういった層というのは、紙のサッカー雑誌を買うことへの必然性を感じていないわけで、売り物として紙媒体を成立させるのが非常に難しくなっていると思います。

──ここまでの話を拾ってつなげるならば、これまでは「ワールドカップ特需」と「ワールドカップ不況」というのが業界にあったわけですよ。良くも悪くも、サッカー業界は4年に一度のワールドカップの影響、というか日本代表の成績に左右されるところがあった。ところが2010年代に入ってからは、紙媒体そのものが売れなくなってきて、成績が良かったとしても特需が期待しにくい状況になっています。もっとも、われわれはワールドカップを当てにすることなく、売れるものを作っていかなければならなくなったと言えるんですが。

浅野 イタリアはワールドカップ出場を逃しましたけど、現地の紙メディアはそんなに影響はなかったと思います。オランダもそうでしょうね。そこはやっぱり、歴史を積み重ねていくしかないのかなと思います。

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