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【無料記事】英国の撮影クルーは震災直後の仙台で何を見たのか? 『Football, Take Me Home 勇者たちの戦い』ダグラス・ハーコム(監督)&ベン・ティムレット(プロデューサー)

© Bill and Ben Productions Ltd. 2016

■ベガルタには「リーズとかヴェローナに近いものを感じた」

——撮影を開始するにあたっては、当然ながらベガルタ仙台とJリーグのアプルーバル(許可)が必要だったと思います。海外からのオファーということで、いろいろと大変なこともあったかと思うのですが、いかがでしょうか?

ベン カオリがベガルタとJリーグにアポイントを取ってくれたんだけど、最初のミーティングに至るまでには少し時間がかかったね。ただ、粘り強い交渉の結果、クルーとベガルタとの間には強い信頼関係が生まれた。またJリーグについても、(12年の)優勝が決まるかもしれない最終節の試合で、観客席からの撮影許可が降りることになった。あの撮影のお陰で作品の価値はさらに高まったね。

ダグ 現地での撮影に関しては、ギャップを感じることはほとんどなかった。ベガルタのサポーターたちとも友だちになって、信頼関係を築くことができたしね。彼らは本当に友好的かつ協力的だった。仙台の街やクラブのフレンドリーな雰囲気を経験できたことは、僕らにとっても非常に大きかった。

——今回の撮影で、初めてJリーグをご覧になったと思います。プレミアリーグと比較して、どんな印象を抱いたでしょうか?

ダグ サポーターについては、正直なところ英国と日本の違いはあまり感じなかった。ただ、実際にベガルタのサポーターと話をすると、非常にサッカーに詳しいという印象を受けたね。それと欧州だと大都市のクラブは「お金がすべて」という部分があるけど、地方都市のクラブはいつも勝てるわけではない代わりに「情熱こそが重要」という傾向があると思う。それは仙台についても言えて、クラブと観客が密接な関係で結ばれていて、しかも情熱的だ。リーズとかヴェローナに近いものを感じたよ。

ベン Jリーグのゲームを見て、まず衝撃を受けたのはスタジアムの一体感。それからトラメガで全体に指示を出したり、大きな旗を振ったりするのも、日本独特のスタイルだと思った。試合前、サポーターが選手のようにストレッチしていたのは、びっくりしたけどね(笑)。

ダグ 僕はこれまで仕事で、いろんな国々でサッカーの試合を見てきた。ヨーロッパはもちろん、北米、南アフリカ、そしてコロンビアでも。レベルは特に気にならない。2つのチームがお互いに勝利を目指して戦うという、ゲームの本質が好きなんだ。で、ベガルタの試合を見ていて感じたのは、特に日本人選手の傾向だと思うんだけど、チームとして機能するために皆が必死でハードワークをしているということ。それと監督の手倉森(誠)が素晴らしい指導者で、チームを上手くまとめていたんだ。

ベン そうそう、手倉森! 12年のホーム最終節で、あと一歩のところで優勝を逃した直後の彼のスピーチは素晴らしかった。日本人はあまり感情を表に出さないというイメージを持っていたけれど、彼はエモーショナルになることを厭わないパーソナリティーだった。非常にハートを持っている監督だと思った

——震災があった11年は、あれほどのダメージがあったにもかかわらず、ベガルタは4位でシーズンを終えます。そこで作品を終わらせるという選択肢もあったかと思うのですが、あえて翌12年も撮影を続けることにした理由は何だったのでしょうか?

ダグ 11年に仙台を訪れたときは、復興への道のりはまだまだ続くと感じた。そこは映画を通して伝えたいと思ったから、翌年も撮影が必要だと最初から考えていたよ。ただ、あれだけベガルタが優勝争いに絡むとは、想像していなかったけど(笑)。でもそれは結果論で、基本的には勝ち負けというものはそれほど気にはしていなかった。僕らが描きたかったのは、被災地のプロサッカークラブが、仙台という街に、そして日本にどういう影響を与えるか、ということだったから。

ベン 僕も、ベガルタの優勝争いはまったく予想できなかった。11年の4位という成績も素晴らしかったけれど、それ以上の展開が12年に待っていた。優勝できなかったのは確かに残念。だけどその分、手倉森監督のスピーチが際立ったと思う。

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