宇都宮徹壱ウェブマガジン

EURO 2016と変化するヨーロッパ(最終回) 千田善のフットボールクリップ

 徹マガ読者のみなさん、ごきげんよう!

 徹マガ(メールマガジン)から宇都宮徹壱WM(ウェブマガジン)へのリニューアルにともない、この連載も最終回になりました。同じ時期に交替で連載をはじめた篠原美也子さんによると、2年9カ月、33回を数えるそうです。これまでありがとうございました。伏してお礼を申し上げます。m(_ _)m

 さて、最終回のテーマ、開催中のEURO 2016と、それを取りまくヨーロッパの(激動と言っていい)情勢についてまとめて見たいと思います。〆切の関係上、現在進行形の動きについてふれますが、この記事がお手元に届くころ決勝トーナメントをむかえるEURO観戦が、ちょっぴり味わい深いものになるお手伝いになれば幸いです。

■集中開催が最後のEURO?

 今回のもっとも大きな特徴は、1または2つのホスト国での集中開催形式が最後になるということです。次回から本大会出場国が増やされ、欧州各地の13都市で分散開催されることになっているのですが、それについては以前も書きましたので、くわしくは2016年1月の「2016年五輪イヤーを展望」を参照してください。

 では、なぜ次回から分散開催なのか? なぜ出場国倍増なのか? ひとことでいえば、それが「プラティニ方式」だということです。

 元フランス代表のスーパースターだったミッシェル・プラティニ氏は、欧州サッカー連盟(UEFA)会長の地位を利用して不正な利益を上げた疑いで失脚したばかりですが、その彼が、UEFA会長選挙に立候補した当時、1990年代以降増加した東欧の新興国(新しい独立国)の支持を拡大するために、いくつかの「改革」案を打ち出しました。そのひとつが、欧州選手権(EURO)の分散開催でした。

 1カ国開催だと、今回の場合なら全52試合をおこなうために、少なくとも6カ所〜10カ所の、UEFAの基準を満たしたスタジアムを整備・建設しなければなりません(今回のフランスは10カ所)。しかし、分散開催でひとつの国で1試合か2試合程度実施するなら、たとえば次期開催地に決定している(名前を出して申し訳ないですが)アゼルバイジャン、ブルガリア、ルーマニアでもできる、じゃあプラティニさんを支持しようじゃないかという具合です。

 大会方式の是非はともかく、このプロセスは、国際サッカー連盟(FIFA)のアベランジェ元会長がアフリカ、アジア諸国の支持を取り付けるために、ワールドカップの出場国数を拡大する公約を掲げた手法とうり二つです。まさか、ワイロ政治のやり方までアベランジェ氏から学んだわけではないでしょうが、結果的に2人は(そしてアベランジェ氏の後継者のブラッターFIFA前会長とともに)同じ運命をたどってしまいました。

 現役時代の華麗なプレーのファンだった身としては、プラティニ氏が汚職に手を染め、6年間の追放処分(当初8年だったが後に軽減された)になったのは、まことに残念。

 プラティニ氏が去った今、2024年のEUROの開催方式も分散開催のままで準備されるかどうか流動的になってくるのではないかと思われます。(一部情報では、分散開催はEURO 60周年記念大会として実施し、「最初から1回限りのもの」だったことにして、次の2024年大会はまた集中開催方式に戻すことが検討されているといいます。すでにドイツが非公式ながら開催国の立候補を表明しています)。

 今大会に話を戻すと、心配されていたテロやシリア難民の流入、フランス国内の労働組合のストライキ(予告)の影響はいまのところありません。テロ対策では、試合がおこなわれるスタジアムだけでなく、パブリックビューイングの会場に入るにも、3回も身体検査を受けるなど、厳重な警戒態勢がとられています。また、フランス全国でも9万人の警官、軍人が動員されて警備に当たっていると報道されています。一方、ロシア対イングランドがおこなわれたマルセイユで、両国の観客同士が乱闘になり、重傷者が出るなど20世紀的なフーリガン問題が起こりました。次に何か起きれば、当該国の代表チームが勝ち点剥奪や失格になるという重い処分が課せられると警告されています。なんとかこれ以上、スタジアムの周辺での事故や事件は起こらないでほしいと願わずにはいられません。

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