宇都宮徹壱ウェブマガジン

【無料記事】EURO 2016取材と「セルフポートレイト」 短期連載『徹壱の仏蘭西日記』最終回 6月20日(月)@リヨン

■セルフポートレイト=客体化するということ

 それにしても、自分が30代から40代にかけてやってきた仕事を、なぜ50歳になった今になってトレースしようとしたのだろう? 実は最近まで、自分でもよく理解していなかった。ようやく腑に落ちたのは、今日たまたま訪れたリヨン美術館でのこと。私が鑑賞したのは『Exposition Autoportraits, de Rembrandt au selfie』といって、レンブラントをはじめとする古今の画家や写真家やアーティストのセルフポートレイトを集めた企画展であった。個人的には、戦前のパリで活躍した藤田嗣治、写真を始めた頃に少なからぬ影響を受けたロバート・メイプルソープ、そして元ユーリズミックスのアニー・レノックスのセルフポートレイトに新鮮な懐かしさを覚えた。

 表現者はなぜ、自分自身を描き続けるのだろうか? それは人間にとって、自分自身の客体化が難しいテーマであるからだろう。自分自身が何者で、どのような状態にあって、どこに向かおうとしているのか──。それらを知ることは、実は表現者にとって必須なのかもしれない。私自身に関して言えば、自分を撮影することはまずしないし、いわゆる「自撮り」も大嫌いである。とはいえ、自分の写真や文章から自身を客体化することは可能だし、その繰り返しこそが自分自身にとっての表現であると心得ている。そうして考えるなら、過去の活動をなぞるような今回のEURO取材は、まさに自分自身の客体化であり、ある意味「セルフポートレイト」のような役割を果たしていたのではないかと思い当たった。

 おそらく私は、セルフポートレイトの必要性というものを、無意識のうちに迫られていたのではないか。思えば『徹マガ』が創刊した2010年以降、私はずっと脇目もふらずに突っ走ってきた。そして気がついたら、今年はフリーランスになって20年目、そして3月には50歳になった。取材パスも持たず、それゆえあまり仕事にもならず、赤字覚悟で臨んだ今回のEURO取材。しかし過去の自分の仕事を重ねることで、フリーランス20年目、そして50歳になった自分の「ありのままの姿」というものを再確認することができた。今は具体的な言及を避けるが「できること/できないこと」、あるいは「やるべきこと/やらなくてよいこと」といったものが、より明確になったような気がする。

 幸運なことに、これまでの私の人生は、節目節目で自分を客体化する機会に恵まれてきたように思う。そしてそれは、自分から求めたというよりも、「気がついたらそうなっていた」ことのほうが圧倒的に多かった。今回についても、あまり明確な目標を掲げないままフランスにやって来て、帰国する直前になって、そのことに気付かされた。本稿がアップされる21日は、『宇都宮徹壱ウェブマガジン(WM)』創刊の10日前。いよいよ本格的なカウントダウンが始まる。EURO取材から心機一転、ここから新たな冒険をスタートできる喜びを、ボーディング直前のリヨン・サン=テグジュペリ空港で密かに噛み締めている。

<この稿、了>

【編集部からのお知らせ】

 短期連載『徹壱の仏蘭西日記』は今回で最終回となります。
さて、間もなくEURO 2016取材から帰国する宇都宮徹壱が、『徹壱の仏蘭西日記』ではお伝えしきれなかったあれこれを、6月30日の
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